舌に口内炎ができると、食事や会話、歯磨きといった日常生活の動作に不自由を感じてしまうものです。口内炎とは、口腔内(=口の中)に生じる炎症の総称です。いくつか種類があり、それぞれ原因や症状、治し方が異なります。この記事では、舌にできやすい口内炎の種類別に、症状や原因、治し方を紹介するとともに、口内炎のような症状を伴う舌の病気についても解説しています。舌の口内炎の治し方に困っている人、口内炎かどうか分からず悩んでいる人は、この記事を参考にし、早めの対処につなげましょう。
この記事の目次
1.舌にできる口内炎の種類別・症状や原因、治し方
舌にできる口内炎の中でも良く見られるのが、「アフタ性口内炎」「カタル性口内炎」「ウイルス性口内炎」です。
それぞれ症状、原因、治し方を見ていきましょう。
なお、口内炎は耳鼻いんこう科や皮膚科、内科、歯科口腔外科など、さまざまな診療科で診てもらうことができます。
ただし、中には口内炎の治療に対応していない医療機関もあるため、受診する前に確認することをおすすめします。
この記事で紹介している、口内炎および口内炎のような症状を伴う舌の病気の見分け方、医療機関の受診の目安は、以下の早見表を参考にしてください。
見分け方 | 医療機関の受診の目安 | |
アフタ性口内炎 | ・周りは赤く、中央は白っぽい炎症 ・一度にできるのは1~3個程度 | 症状がひどい、2週間以上治らないといった場合は医療機関を受診 |
カタル性口内炎 | ・赤い斑点、ひび割れ、水ぶくれ ・輪郭が曖昧で全体的に赤くなる | 症状がひどい、2週間以上治らないといった場合は医療機関を受診 |
ウイルス性口内炎 | ・複数の水ぶくれのような炎症 ・喉や手足、口腔内に発疹が出る | 医療機関を受診 |
白板症 | ・舌の一部が白くなり盛り上がる ・白い部分はこすっても剥がれない | がん化することがあるため、早めに医療機関を受診 |
紅板症 | ・舌の一部が赤くなり厚くなる ・表面はなめらか、つやつや | がん化することがあるため、早めに医療機関を受診 |
舌がん | ・舌の端にできやすいしこり ・しこりが大きくなったりただれたりする | 2週間以上治らず、症状が悪化している場合は医療機関を受診 |
1-1 アフタ性口内炎
【特徴・症状】
周りは赤く、中央はやや浅く窪(くぼ)んだ、白っぽい炎症が特徴です。
舌だけでなく、頬の内側や唇の内側にできることも多いです。
大きさは数ミリ程度で、1個だけできるときもあれば、2~3個同時にできることもあります。
歯や歯ブラシが触れたり、熱い、辛い、酸っぱいなど刺激のある食べ物や飲み物、香辛料が触れたりすると、鋭い痛みを覚えます。
【原因】
アフタ性口内炎を招く、はっきりした原因は分かっていません。
しかし、疲労やストレスの蓄積による免疫力の低下や、食生活の偏りによるビタミン不足が要因になると考えられています。
また、舌を噛む、入れ歯や歯の被せものに不具合があって舌に触れている、といった物理的刺激がきっかけとなって発症することもあるようです。
【治し方】
1~2週間で自然治癒することがほとんどです。
生活習慣を改善したり、粘膜を保護する働きのあるビタミンB2を意識的に摂取したりして、様子を見ましょう。
ただし、同時に複数個できてしまい、飲食や会話に支障をきたす場合、あるいは、2週間を過ぎても改善が見られない場合は、医療機関の受診も検討しましょう。
1-2 カタル性口内炎
【特徴・症状】
赤い斑点や水ぶくれ、ひび割れなどの症状が現れます。
そのため、「紅斑性口内炎(こうはんせいこうないえん)」と呼ばれることもあります。
輪郭(りんかく)がはっきりせず、全体的に赤っぽくなるのが特徴です。
口の中が熱く感じたり、食べ物や香辛料の刺激でヒリヒリ痛んだりします。
腫れがひどい場合、味覚が鈍って味を感じにくくなることもあります。
【原因】
主な原因は、舌への物理的刺激による外傷と考えられています。
「とがった歯が舌に当たる」「矯正器具が舌に当たる」といった慢性的な刺激のほか、「熱いものでやけどをする」「舌を噛む」といった刺激による傷も原因になります。
口腔ケアが不十分で細菌が増殖している場合、傷口に細菌が侵入することで発症しやすくなると言われています。
【治し方】
1週間程度で自然治癒することが多いです。
その間、熱いものや刺激のある食べ物、飲み物、香辛料などの摂取は控えましょう。
うがいや歯磨きといったケアで口腔内を清潔に保つことでも、改善が期待できます。
歯や矯正器具が慢性的に舌に当たっていることが原因の場合、歯医者さんを受診し、改善方法について相談することをおすすめします。
1-3 ウイルス性口内炎(ヘルペス性口内炎、カンジダ性口内炎※など)
【特徴・症状】
舌や口腔内に水ぶくれができて発熱を伴う「ヘルペス性口内炎」、口腔内や手足に発疹(ほっしん=小さな吹き出物)が出る「手足口病」、発熱や喉の奥に発疹が出る「ヘルパンギーナ」などがあります。
そのほか、カンジダ菌と呼ばれる真菌(しんきん=カビ)に感染することで発症する「カンジダ性口内炎」もあります。
このうち、「手足口病」や「ヘルパンギーナ」はいわゆる“子どもの夏かぜ”と呼ばれ、乳幼児によく見られる病気です。
発熱、倦怠感(けんたいかん=だるさ)といった全身症状のほか、複数の水ぶくれのような炎症や発疹が口腔内に出ているといった場合は、ウイルス性口内炎を疑いましょう。
カンジダ性口内炎の中でもよく見られるのは、「偽膜性(ぎまくせい)カンジダ症」です。
舌や頬の内側といった口腔内に、白い苔(こけ)のようなものが、点やまだら状に現れます。
白い苔のようなものはこすると剥(は)がれますが、ただれや出血を伴うことがあります。
発熱といった全身症状はなく、痛みや炎症もないことが多いのですが、珍しいケースだと症状が変化し、痛みや炎症が生じることもあるようです。
※カンジダ性口内炎は、ウイルスではなく真菌によって感染する口内炎ですが、便宜的に「ウイルス性口内炎」に含めて解説しています。
【原因】
- ヘルペス性口内炎…単純ヘルペスウイルス1型
- 手足口病…コクサッキーウイルスA16、エンテロウイルス71といった複数のウイルス
- ヘルパンギーナ…コクサッキーウイルスA群
- カンジダ性口内炎(偽膜性カンジダ症)…カンジダ菌
このようなウイルスや菌(※)が主な原因とされています。
飛沫(ひまつ=くしゃみや咳で飛び散る液体の粒子)による感染のほか、直接手を触れた、またはタオルを共用したといった、間接的な接触によっても感染します。
※【参考】 日本口腔外科学会 口腔外科相談室 口腔粘膜疾患
【治し方】
ヘルペス性口内炎に関しては、医療機関を受診し、抗ウイルス薬を処方してもらうことが治療への近道です。
しかし、手足口病やヘルパンギーナには特効薬がなく、対症療法(※)が中心になります。
医療機関では、鎮痛解熱剤や、粘膜を保護するための軟膏(なんこう)が処方されることがあります。
熱い、辛いといった刺激の強い食べ物や飲み物、香辛料の摂取を控えましょう。
同時に、うがいや歯磨きで口腔内を清潔に保ち、患部に触れないようにしましょう。
※原因ではなく、現れている症状に対して処置をする治療を対症療法と言います。
2.口内炎と間違えやすい舌の病気
口内炎のような症状が現れる舌の病気もあります。
2-1白板症(はくばんしょう)
舌の一部が白く変色して盛り上がっている場合、白板症の疑いがあります。
偽膜性カンジダ症に似た症状ですが、白く変色した部分はこすっても剥がれません。
粘膜がただれ、食べ物が当たると痛んだり、しみたりすることがあります。
白板症は、がん化することがある症状(=前がん病変)のため、慎重に経過観察することが大切です。
舌に白い口内炎ができ、2週間以上経過しても改善しない場合、歯科口腔外科を受診することをおすすめします。
【白板症の原因】
白板症の原因は明らかになっていません。
しかし、入れ歯が当たるといった慢性的な物理的刺激、喫煙や飲酒の習慣、刺激の強い食べ物や香辛料といったことが要因となって、発症することがあると考えられています。
ビタミンA・Bの不足や体質、加齢が関係するという意見もあるようです。
【白板症の治し方】
入れ歯を調整する、禁煙や禁酒をする、刺激の強い食べ物や香辛料の摂取を控えるなど、考えられる要因を排除していきます。
医療機関での薬物を使った治療では、ビタミンAを投与して改善するかどうか経過観察するのが一般的です。
2-2 紅板症(こうばんしょう)
舌の一部が鮮やかな赤みを帯びて厚くなっている場合、紅板症を疑いましょう。
粘膜の表面はなめらかで、つやつやしていることが多いです。
初期症状として、刺激に対する痛みが生じることがあります。
白板症と同じ「前がん病変」で、約半数ががん化(※)すると言われています。
そのため、さらに注意深く経過観察することが大切です。
赤く盛り上がった口内炎のようなできものが、2週間以上経過しても改善しない場合、歯科口腔外科を受診しましょう。
※【参考】日本口腔外科学会 口腔外科相談室 口腔粘膜疾患 紅板症
【紅板症の原因】
紅板症のはっきりとした原因は分かっていません。
男女差はなく(※1)、患者さん全体の8割が50歳代以上の高齢者(※2)であると言われています。
※1【参考】 徳島大学病院 がん診療連携センター 口腔がん
※2【参考】 日本口腔外科学会 口腔外科相談室 口腔粘膜疾患 紅板症
【紅板症の治し方】
がん化する確率が高いことから、切除することが多いです。
症状によっては切除せず、長期的に経過観察することもあるようです。
2-3 舌がん
舌がんは、舌の先や真ん中よりも、端にできることが多いしこりです。
初期の段階では痛みがないか、あっても口内炎のような痛みのため、舌がんと気づかないこともあります。
進行すると、ただれや潰瘍(かいよう=組織が損傷してしまうこと)が生じ、熱いもの、酸っぱいもの、辛いものなどに対してしみたり痛んだりします。
さらに症状が進むと硬いしこりとなり、痛みが強くなるほか、舌が動かしにくくなる、飲み込みにくくなるといった症状も出てきます。
口内炎のようなできものが2週間以上続き
- しこりがだんだん大きくなった
- 舌の一部がえぐれてきた
- 粘膜の表面がただれてきた
といった症状が見られた場合、できるだけ早く歯科口腔外科を受診しましょう。
【舌がんの原因】
舌がんの原因ははっきり分かっていません。
しかし、喫煙や飲酒による刺激、先のとがった歯が当たるといった物理的な刺激、口腔内の不衛生な環境などは、舌がんを招く要因になると考えられています。
【舌がんの治し方】
手術によるがんの切除、放射線治療、抗がん剤治療などがあります。
手術と抗がん剤、放射線と抗がん剤といったように、がんの進行度合いによって治療を組み合わせることもあります。
3.まとめ
舌の口内炎は、自然治癒するものもあります。
しかし、2週間以上続く場合、舌がんといった病気が原因であることも考えられます。
自己判断が難しいため、舌の口内炎や口内炎のような症状に不安がある場合、まずは医療機関を受診してみてください。
出身校:神奈川歯科大学
卒業年月日:2009年3月
2010年 新潟大学付属医歯学総合病院 勤務
2011年 神奈川歯科大学付属横浜クリニック インプラント科 入局
2013年 斉藤歯科クリニック 院長就任
執筆者:
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