唇のできものは何?症状と原因、治療法を医師が紹介

唇のできものは何?症状と原因、治療法を医師が紹介

唇や口の横に痛みのある「できもの」や、痛みの出ない「できもの」ができることがあります。

“食事中に痛む”“話しにくい”など厄介に感じたり“病気では?”と不安に感じたりするかもしれません。

この記事では、唇のできものの症状や原因・治療法を紹介し、何科を受診すれば良いかもまとめています。「何かの病気なのか知りたい」「なかなか治らずに不安」「医療機関を受診した方が良いか迷っている」という人はぜひ、参考にしてください。

※本記事では処方薬や市販薬について触れています。処方薬および市販薬を使用する際は、医師または薬剤師の指示に従い、用法用量を守って正しく使用してください。

この記事の目次

1.口唇ヘルペス

唇の周辺に水ぶくれのようなものが複数でき、腫れやただれなどの症状をともなっていたら、口唇ヘルペスかもしれません。

口唇ヘルペスは「初感染で発症した場合」と「再発した場合」とで症状が異なります。
初感染で発症すると重症化する傾向があり、発熱や倦怠感、口の中に多数の水ぶくれのようなものができることがあります。
まれに「ヘルペス脳炎」を起こし、生命にかかわるほど重症化することもあります。

再発の場合、唇のあたりがピリピリする、水ぶくれのようなものやただれが生じるといった症状に留まることが多いようです。

1-1 口唇ヘルペスの原因

口唇ヘルペスは「単純ヘルペスウイルス1型」と呼ばれるウイルスが原因です。
日本人が幼少期に感染するウイルスのひとつで、感染してもすぐに症状が出ないケースが多いようです。

発症のメカニズムははっきり分かっていませんが、免疫力が低下したタイミングで、体内に潜伏しているウイルスが活発になり、感染症を招くことがあると考えられています。

強い紫外線を浴びた後に再発することもあるようです。

1-2 口唇ヘルペスの治療法

抗ウイルス薬による治療法が基本です。

抗ウイルス薬は「ウイルスの増殖を抑える薬」であり「ウイルスを根絶する薬」ではありません。
そのため、単純ヘルペスウイルス1型は体内から根絶できないと言われています。

「第一類医薬品(薬剤師が販売する医薬品)」として軟膏などが市販されていますが、基本は再発に対する薬品のため、初感染で症状が出た場合は医療機関を受診しましょう。

2.アトピー性口唇炎

唇のできものに強いかゆみがあり、カサカサに乾燥している、ひび割れているといった症状をともなう場合、アトピー性口唇炎かもしれません。
特に、アトピー体質の人に同様の症状が見られる場合、アトピー性口唇炎が疑われます。

2-1 アトピー性口唇炎の原因

原因は、はっきりと解明されていません。

口腔内の細菌のバランスが崩れたり、肌を乾燥から守るための表皮のバリア機能が、何らかの原因で正常に機能しなくなったりすると、アトピー性口唇炎を発症するのではないかと考えられています。

2-2 アトピー性口唇炎の治療法

アトピー性口唇炎の治療は、基本的にアトピー性皮膚炎に対する治療法と同じです。
炎症が強い場合は「ステロイド剤」の外用薬や内服薬を用います。

一方、かゆみが強い場合は「抗ヒスタミン剤」の内服薬を処方されることがあります。
軽度の場合は、唇を保湿する程度で済むこともあるようです。

3.接触性口唇炎

いわゆる「かぶれ」を接触性皮膚炎と言います。
接触性口唇炎は、その「かぶれ」が唇にできたような状態です。

唇に、腫れや発赤、水ぶくれのようなもの、湿疹などの症状があらわれます。

3-1 接触性口唇炎の原因

接触性口唇炎には「一次刺激性接触性口唇炎」と「アレルギー性接触性口唇炎」という2つの原因があります。

一次刺激性接触性口唇炎

炎症の原因となる物質が唇に触れることで刺激となり、口唇炎を起こしているケースです。
例えば石鹸・洗顔料・リップクリームなどに含まれる界面活性剤など化学物質が原因になることもあります。

アレルギー性接触性口唇炎

アレルギーの要因となる物質が唇に触れて刺激となり、炎症を起こすケースです。
口紅、金属、抗菌薬など、何が原因となる物質かはその人の体質によります。

3-2 接触性口唇炎の治療法

原因となる物質を特定し、接触を避けた上で対症療法(あらわれている症状に対する処置)をおこなうのが基本です。
炎症を抑えるために「ステロイド剤」が用いられることもありますが、その場合はステロイドが炎症の原因ではない場合です。

かゆみが強いときは「抗ヒスタミン剤」の内服薬を併用することもあります。

4.剥離性口唇炎

子どもによく見られる口唇炎です。

痛みのほか「唇の皮がめくれる」「唇の皮が剥(は)がれ落ちる」「黄色っぽいかさぶたができる」といったように、唇の表面が荒れた状態になります。

4-1 剥離性口唇炎の原因

人間の皮膚は、一定の周期で細胞が新しく生まれ変わる「ターンオーバー(皮膚の新陳代謝)」を繰り返しています。
何らかの原因でターンオーバーの周期が早まると、未熟な細胞が表面に出てきてしまい、肌が荒れたような状態になることがあります。

唇も同じように、ターンオーバーが過剰になることで表面が荒れ、剥離性口唇炎を発症することがあります。
「唇をなめる」「唇の皮を剥(む)く」「ビタミンB群(特にB2・B6)不足」「ビタミンEの過剰摂取」などがきっかけになることもあると言われています。

4-2 剥離性口唇炎の治療法

患部を清潔にし、ワセリンなどで保湿すると自然治癒するケースが多いです。
なかなか治らない場合は医療機関を受診しましょう。

荒れがひどい場合は「ステロイド剤」で炎症を抑えることもあります。

5.日光口唇炎

日光口唇炎は、長期的に紫外線を浴び続けたことによって発症する「光線角化症」が唇に発生したものです。

褐色・赤褐色・ピンク色などをしており、数mm~2cm程度の大きさになることがあります。
多いのは“平らなまだら模様”ですが、立体的にあらわれる場合もあります。

日光口唇炎は、放置するとがん化する恐れがある「前がん病変」の一つです。

がん化した場合「有棘(ゆうきょく)細胞がん」「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」などになります。
これらのがんは基本的に同じものですが、皮膚に発生した場合は有棘細胞がん、粘膜に発生した場合は扁平上皮がんと呼ばれています。

5-1 日光口唇炎の原因

長期間にわたって慢性的に紫外線を浴びたことにより、DNAを損傷することが原因とされています。
紫外線には、肌を褐色させる「UV-A」と、肌を火傷のような状態にする「UV-B」といった種類があります。

このうちの「UV-B」が、日光口唇炎の大きな原因になっていると考えられています。

5-2 日光口唇炎の治療法

患部を保存したまま改善を促す場合、抗炎症薬の「ジクロフェナクナトリウム」などが用いられます。

薬品で患部を除去する場合、抗悪性腫瘍薬の「フルオロウラシル」を使って患部を意図的に炎症させ、最終的に除去する方法があります。

外科的な処置としては、液体窒素で凍結させる「クライオサージェリー」や、イボ・シミの除去などにも使われる「炭酸ガスレーザー」のほか「外科的切除」などがあります。

6.口角炎

唇の両端または片側が炎症を起こしてひび割れや腫れ、かさぶたなどができ、口を開けたときに痛みを感じるという場合、口角炎かもしれません。
口を開けたときに唇の端が切れることがあります。

6-1 口角炎の原因

口角炎の原因は、カンジダ菌や細菌、ウイルスへの感染、栄養不足(主にビタミンB群・ビタミンA)、入れ歯が当たって刺激になっている、などさまざまです。

その中でもカンジダ菌や細菌、ウイルスへの感染によるものが多いようです。
カンジダ菌は健康な人の口の中にも存在する常在菌で、健康であれば感染症を発症することはほとんどありません。

しかし「免疫力の低下」「ドライマウス」「抗生物質の多用」などによって菌のバランスが崩れると、発症することがあります。

6-2 口角炎の治療法

基本的には自然治癒しますが、原因が複数あるため、自己判断した場合は症状が長引く・再発するといったリスクが生じます。

特にカンジダ菌が原因だった場合、市販の抗生物質を塗ってしまうと悪化することがあります。
抗生物質は真菌(しんきん=カビ)であるカンジダ菌には効かず、細菌だけを殺菌するため、常在菌のバランスが失われ結果としてカンジダ菌の増殖を招くことになるからです。

医療機関では、カンジダ菌が原因であれば抗真菌薬を、細菌が原因であれば抗生物質が含まれる軟膏(なんこう)や内服薬を処方するのが主な方法です。
栄養不足であれば、ビタミン剤を処方することもあります。

入れ歯が当たって刺激になっている場合、歯医者さんを受診して調整してもらうことをおすすめします。

7.ニキビ

皮膚と唇の境目付近に、白っぽい、または黒っぽいできものができたら、ニキビかもしれません。
しかし、ニキビは毛穴があるところにできるため、毛穴がない唇の粘膜部分にニキビのようなものができた場合は、口唇ヘルペスの疑いも出てきます。

7-1 ニキビの原因

ニキビは、毛穴が皮脂や古い角質などで詰まることで発症します。
毛穴の内部で「アクネ桿菌(かんきん)」と呼ばれる細菌が増殖し、炎症を起こします。

毛穴が詰まり、皮脂が溜まり始めたものを「白ニキビ」、毛穴が開いて皮脂が酸化し、黒く見えるものを「黒ニキビ」、白ニキビが悪化して炎症を起こしたものを「赤ニキビ」などと呼んで区別します。

赤ニキビの炎症が悪化し、膿が溜まったものを「黄色ニキビ」と呼ぶこともあります。

7-2 ニキビの治療法

炎症が起こる前の、皮脂が溜まっている状態なら、面皰圧出(めんぽうあっしゅつ)と呼ばれる処置を行います。
針やレーザーでニキビの表面に小さな穴を開け「アクネプッシャー」という器具でニキビの中身を取り除きます。

すでに炎症が起こって赤く腫れているようなら、ステロイド剤の一種を注射し、炎症を鎮(しず)める治療法もあります。

8.ウイルス性のイボ

唇の端に白く小さなできものがいくつも発生している場合、ウイルス性のイボかもしれません。

8-1 ウイルス性のイボの原因

イボの原因となるのは、ヒトパピローマウイルスと呼ばれるウイルスです。
接触感染するウイルスで、皮膚表面の小さな傷から入り込むことがあります。

ヒトパピローマウイルスには150種類を超える型があり、イボを作る型のほか、子宮がんや皮膚がんといったがんの原因になる型もあるとされています。

8-2 ウイルス性のイボの治療法

ほとんどの場合、液体窒素でイボを凍結させて除去する治療がおこなわれます。

また、漢方薬のヨクイニン(ハトムギ)は、保険適用の治療として取り入れている医療機関もあることから、イボに対して一定の作用が期待できるかもしれません。

9.クインケ浮腫

突発的にあらわれる血管性の浮腫(ふしゅ=むくみ)を、クインケ浮腫と言います。
特に唇全体が腫れあがっているという場合、クインケ浮腫の疑いがあります。

唇のほか、まぶたや頬が腫れることもあります。

数時間で急速に腫れあがり、3日ほど腫れが続いたり、再発を繰り返したりすることがあります。
赤みやかゆみはともなわないことがほとんどで、指で押しても跡が残ることもありません。

9-1 クインケ浮腫の原因

クインケ浮腫には、遺伝性と後天性があります。

遺伝性の場合、「C1エステラーゼインヒビター(C1-INH)」と呼ばれる酵素の欠損が原因とされています。
後天性の場合は、解熱消炎鎮痛薬、降圧薬、経口避妊薬(ピル)など薬剤に対するアレルギー反応と考えられています。

疲労やストレスによる免疫バランスの崩れも、発症の要因になることがあるようです。

9-2 クインケ浮腫の治療法

遺伝性の場合、欠損している「C1エステラーゼインヒビター」を補充するため、製剤を注射する治療法があります。

原因がアレルギーや物理的刺激によるものの場合は、原因となる物質を特定し、接触を回避するとともに対症療法で修復を目指します。

10.口唇がん

唇に発生するできものには悪性腫瘍も存在します。

口腔がん(舌や歯茎など口腔内にできるがんの総称)のひとつで、口腔がんの中でも比較的少ないがんと言われていますが、悪性腫瘍に変わりはありません。

唇に「硬いしこり」「えぐれたような病変」を見つけたら、口唇がんの可能性も踏まえて医療機関の受診をおすすめします。

10-1 口唇がんの原因

口唇がんの原因は悪性腫瘍ですが、リスク因子(発症リスクを高める要素)と言われているのは喫煙、飲酒、紫外線、ヒトパピローマウイルスへの感染などです。

口腔内が不衛生なことや、サイズが合わない入れ歯などが常に唇に刺激を与えているといったことなどもリスク因子になりうると言われています。

10-2 口唇がんの治療法

外科手術や放射線治療、化学療法(抗がん剤)などがあります。
腫瘍が小さければ外科手術で切除できることもあります。

腫瘍が大きい場合は、先に放射線治療や化学療法で腫瘍の縮小を試みるのが基本です。

リンパ節への転移が疑われる場合「リンパ節郭清(かくせい)術」でリンパ節を切除することもあります。

11.唇のできものは何科を受診すれば良い?

疑われる病気対応している診療科(※)
口唇ヘルペス小児科・皮膚科・歯科口腔外科・内科・耳鼻いんこう科など
アトピー性口唇炎皮膚科・歯科口腔外科
接触性口唇炎
剥離性口唇炎
日光口唇炎
口角炎
ニキビ皮膚科
ウイルス性のイボ
クインケ浮腫内科・歯科口腔外科・耳鼻いんこう科・皮膚科など
口唇がん歯科口腔外科

※上記の診療科目を掲げている医療機関でも、唇のできものに対応していないことがあります。特に初めて受診する医療機関の場合は、事前に確認しましょう。

唇のできものは、基本的に歯科口腔外科や皮膚科で対応してもらえるケースが多いです。

ただし、乳幼児が口唇ヘルペスに初感染した場合は小児科、喉などにも白いできものができたら内科や耳鼻いんこう科など、症状によって受診する科が変わることもあります。

何科を受診すれば良いか迷ったら、歯科口腔外科や皮膚科を受診しましょう。
対応していない病気だった場合、対応できる別の医療機関を紹介してもらえます。

かかりつけの歯医者さんがある人は、まずはその歯医者さんを受診しましょう。

かかりつけの歯医者さんが歯科口腔外科を掲げていなくても、口の中の状態を知ってくれている強みがあるため、小さな異変でも気づいてくれる可能性があります。

12.まとめ

唇の「できもの」にはたくさんの種類があるため、自己判断が難しいです。

2週間を経過しても改善しない、または発熱などその他の症状をともなうという場合、痛みの有無に関わらず医療機関を受診することをおすすめします。

コメント

口の中や唇は皮膚の粘膜が薄く傷付きやすいところです。そこで起きる症状には様々なものがあります。唇のできものには様々な原因が考えられます。放っておいても大丈夫なものから、速やかな受診が必要なものまで幅広い症状があります。唇にできものができてしまった場合には、まずは冷静に自分の症状をチェックすることが大切です。かといってセルフチェックの過信や自己流の治療法を続けるのは考えもの。少しでもおかしいな、治りにくいなと感じたら速やかに歯科医院に受診して下さい。そして何よりも、まずは健康的な生活を心がけて唇にできものができないよう心がけることが大切です。健康的な生活は体の健康のみならず、美しさのためにも大切です。

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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