「口唇ヘルペス」は口の周囲に水ぶくれができて、1~2週間ほど症状が持続する病気です。風邪などで体調を崩したときに発症する例が多いことから、「風邪の華」「熱の華」といった別名で呼ばれることもあります。
こちらの記事では、口唇ヘルペスに用いられる薬について解説しています。処方薬・市販薬ともに、成分・作用を説明していますので、ぜひ、口唇ヘルペスの基礎知識を得るのにお役立てください。
この記事の目次
1.口唇ヘルペスは、抗ウイルス薬で治療する!
口唇ヘルペスを引き起こすのは、「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」と呼ばれるウイルスです。ちなみに、「単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)」という種類も存在していて、こちらは性器ヘルペスの原因になります。
さて、単純ヘルペスウイルスはいったん感染すると、体内から根絶することができません。HSV-1は三叉神経節、HSV-2は脊髄神経節という場所に潜んで、ずっと存在し続けます。要するに、一度でもヘルペスウイルスに感染した人は、死ぬまで体内にウイルスを飼い続けることになるわけです。そのため、口唇ヘルペスの治療目標は、あくまでも「口唇ヘルペスの症状を止めること」にとどまります。
ウイルスは細胞に感染し、ウイルス感染細胞に自分のコピーを作らせます。ですから、ウイルスの増殖を抑えれば、ウイルス感染細胞の増加速度を遅らせることができます。ウイルス感染細胞の増加速度が遅くなれば、「免疫システムによるウイルス感染細胞の破壊」により、口唇ヘルペスは修復に向かいます。ヘルペスウイルス感染細胞に対しては、細胞傷害性T細胞による破壊のほか、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)などによる抗体依存性細胞傷害(ADCC)がおこなわれます。
以上から、口唇ヘルペスに対しては、ウイルスの増殖を抑えるための「抗ウイルス薬」を投与することになります。わかりやすく表現するならば、ウイルスの増殖を阻害して、免疫システムをアシストするわけです。
2.口唇ヘルペスの治療に用いられる「抗ウイルス薬」の種類
口唇ヘルペスに使われる抗ウイルス薬には、いくつかの種類があります。この章では、単純ヘルペスウイルスの増殖を抑える有効成分3種類について解説することにしましょう。ちなみに、ウイルスの増殖は「発症から72時間」でピークを迎えます。なるべく早い段階で抗ウイルス薬を使用したほうが、症状の悪化を抑えやすくなります。
2-1 アシクロビル
単純ヘルペスウイルスは「細胞膜がDNAを覆う構造」をしています。細胞に入りこんで、細胞をウイルス感染細胞にしたあと、細胞の転写・複製能力を利用して、自分のDNAを複製していきます。
ここで重要なのは、ウイルス感染細胞がDNAを合成するときに「DNAポリメラーゼ」という酵素を用いる…という部分です。DNAポリメラーゼを阻害してしまえば、ヘルペスウイルスのDNAを複製することはできません。アシクロビルは、まさにヘルペスウイルスのDNA複製に必要なDNAポリメラーゼを阻害する「DNAポリメラーゼ阻害薬」です。
アシクロビルを有効成分とする抗ウイルス薬には、内服薬と外用薬の両方があります。内服薬は1日5回服用、外用薬は軟膏・クリームを適宜塗布します。
2-2 バラシクロビル
バラシクロビルは、アシクロビルに必須アミノ酸のバリンを結合させることで、吸収効率を高めた成分です。体内でアシクロビルに変わるので、作用機序そのものはアシクロビルと同じになります。このように、体内で有効成分に変化して薬効を示すものを「プロドラッグ」と呼びます。
着目するべきなのは、経口投与したときの吸収効率です。アシクロビルは服用した分量の10~20%くらいしか体内で利用されませんが、バラシクロビルは50%以上が利用されます。そのため、バラシクロビルを有効成分とする内服薬は、1日2回の服用で十分な作用を得ることができます。1日5回の服用を要するアシクロビルと比較したとき、患者さんの負担が大きく減るわけです。
2-3 ビダラビン
ビダラビンに関しては、作用機序が立証されていません。ただ、恐らくはアシクロビルと同様に「DNAポリメラーゼ阻害薬」として働いているものと考えられています。2017年現在、ビダラビンを有効成分とする医薬品は外用薬・点滴のみで内服薬はありません。外用薬を用いる場合、軟膏・クリームを患部に適宜塗布します。
3.はじめての口唇ヘルペスは、内服薬で治療!
口唇ヘルペス治療薬のうち、内服薬は医師の処方箋を要する処方薬です。一方、外用薬(軟膏・クリーム)は第一類医薬品として市販されています。第一類医薬品は薬剤師が販売できる医薬品のことです。
ただし、「初めて口唇ヘルペスになった」という場合、市販薬で治療するのはNGです。市販されている外用薬には「口唇ヘルペスの再発に用いる」と明記されているからです。市販薬は、口唇ヘルペスの診断を受けていて、再発を繰り返している患者さんに向けた医薬品になります。
はじめて感染したときの口唇ヘルペスは重症化しやすく、外用薬だけでは作用が不十分です。また、医師の診断を受けず自己判断で口唇ヘルペスと断定することにも少なからず問題があります。はじめて「口唇ヘルペスと思われる症状」が出たときは、面倒くさがらずに医療機関を受診するようにしてください。
また、外用薬は皮膚・粘膜でのウイルス増殖を抑えるだけで、神経に潜んでいるウイルスには作用しません。再発例であっても症状が重い場合は、神経内のヘルペスウイルスに対しても作用する内服薬を用いるのが原則です。
4.まとめ
口唇ヘルペスに対しては、抗ウイルス薬による投薬治療をおこなうのが基本的です。皮膚科のほか、一部の歯科口腔外科でも口唇ヘルペスの診断・治療ができるので、近場の医療機関を探してみてください。
そもそもヘルペスウィルス自体は人間の筋肉組織内に潜んでいて、ご自身の免疫状態の低下により表面化してしまうものです。臨床的には少ないですが、接触感染の可能性もあるので、ご心配の方は皮膚科医や歯科医師にご相談ください。
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