歯周病は人から人にうつってしまうのでしょうか。また、歯周病菌がうつったことで、すぐに症状は出てしまうのでしょうか。
日本歯科大学生命歯学部・沼部幸博(ぬまべゆきひろ)教授にインタビューを行い、歯周病の感染について解説していただきました。
※前回の記事「歯周病が関係する全身の病気!がんのリスクを高める可能性も」
人にうつる歯周病!うつるだけは感染とはいわない?
歯周病は人から人にうつって、感染してしまうということはあるのでしょうか?
その原因となる歯周病菌は、人から人にうつります。
同じことが虫歯菌でもいわれていますが、親から子供にうつってしまう原因としては、口移しで食べ物を与えたり、同じ食器を使用して食事をしていることなどが考えられますね。
また、パートナー同士のキスなどでも歯周病菌がうつるということが分かっているんです。
ですが、歯周病菌が相手の口の中から入り込んだからといって、病気が発症するとは限らないんですね。歯周病菌がすみかを見つけ定着していない状態ならば感染ではなく、口の中にすみかを見つけて歯茎を攻撃してしまう状態になると感染となります。
すみついた歯周病菌が、悪さをしないようにするにはどうしたらいいのでしょうか?
歯周病菌がすみかを見つけて根付いてしまい、増えてしまうことがトラブルの原因となります。このすみかが歯の周りにつくられるのがデンタルプラークです。
そうならないためには、きちんと歯磨きをすることが大切ですよね。しっかりと歯磨きができていれば、歯周病菌が入ってきてもそれほど問題はないと思います。
子供も歯周病に注意!約65%が歯周病の初期段階
子供にもうつってしまう歯周病菌ですが、歯周病になった子供の例をあまり聞かないのはなぜでしょうか?
デンタルプラーク中の歯周病菌の攻撃を受けている時間、免疫力の問題や、唾液も関係していると思います。唾液の中に含まれている抗菌物質には、細菌を殺す作用がありますし、子供は唾液の量が多いため洗い流されてしまうなど、さまざまな理由が考えられますね。
ただ歯をよく磨かない子供では、初期の歯周病である歯肉炎(歯茎に限定した炎症)を見ることはあります。
しかし、子供に進行した歯周病がないのかというと、そういうことではありません。小さいころでも重い歯周病にかかるケースがあります。それらは特殊な形で症状が現れます。
ダウン症候群の子供は歯周病が進んでいることが多く、またパピヨン・ルフェーブル症候群では、乳歯と永久歯の生え替わりの時期に、重い歯周病になって乳歯や永久歯が抜けてしまうことがあります。
思春期以降でも、比較的若い時期から進行した歯周病の症状が現れる侵襲性歯周炎(しんしゅうせいししゅうえん)という病気もあります。
子供でも歯周病には気をつけなければいけないんですね。
そうですね。先ほど述べたように子供の歯周病の場合、初期の歯周病の段階である歯肉炎であることが多いです。
少し古い統計データになりますが、15歳から19歳の若者の約65%が歯周病の初期段階、すなわち歯肉炎にかかっていることが分かりました。
そして年齢が上がっていくにつれ、進行した歯周病、すなわち歯周炎の方が増えてきます。最近の統計データでは65歳以上の高齢者でも歯周病が増えていて、これは以前と比較して、お年寄りでも保たれている歯の本数が多くなっているからと考えられます。
歯の教科書 編集部まとめ
歯周病菌は人から人にうつってしまいますが、うつったからといって病気が発症するわけではないことが分かりました。
うつってしまった歯周病菌を増やさないことが大切なので、そのすみかをつくらないようにしっかりと歯磨きをして、歯周病予防に取り組みましょう。
また、子供でも歯周病の初期段階の歯肉炎が見られるようです。気づかないうちに進行してしまう症状ですので、正しい知識を共有し、家族で歯周病予防に取り組むことが重要ですね。
1983年3月:日本歯科大学歯学部卒業
1987年3月:日本歯科大学大学院修了(歯学博士)
1987年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助手
1989年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 講師
1989年9月:カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)歯学部 客員講師(〜1991年)
1993年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助教授
2005年6月~:日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座 教授
2018年4月~:日本歯科大学生命歯学部 学部長
現在に至る
執筆者:
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