日本大学・歯学部・小児歯科学講座・白川哲夫教授に“子供の歯の特徴”についてインタビュー。乳歯と永久歯の本数の違いについて聞くと、思わぬ現状が浮かび上がってきました。
また、子供の虫歯のなりやすさは、親御さんの持つ唾液の性質に結びつくといいます。白川教授の説明と、データなども交えて詳しく解説していきます。
※前回の記事「子供の虫歯はなぜ白い!?子供と大人で違う、虫歯の色のメカニズム」
この記事の目次
28本の永久歯より少ない子供も!変化する口内環境
Q1.なぜ乳歯と永久歯では本数が違うのでしょうか?
これは誰かが、どこかの神様がそれを決めてくれたのだろうと思うんですけれど・・・(笑)。
生物学的に考えますと二生歯性(にせいしせい)、乳歯と永久歯ですね。これは大変合理的にできています。乳歯だけで食事をするのは、生まれて1歳前から5、6歳くらいまでですよね。その期間は、そんなにたくさんの歯の数を必要としていないわけですよ。
食べる量も大人に比べて少なく、ものすごく硬いものをかじるということもありませんので、それほどの硬さは必要ない。なにより筋力が大人とは明らかに違いますから、強く噛む力もないです。そうすると、永久歯よりも軟らかい乳歯でも、歯の方が負けて割れてしまうといったことは少ないです。20本あれば十分ということです。
これが小学生・中学生くらい、大人になるといろいろなものを食べるようになります。昔の人は、くるみなど硬い木の実をよく食べていたので、軟らかい乳歯レベルだと欠けてしまう。すると、20本ではとても足りなく、32本になったんです。
Q2.32本の歯が望ましかったということでしょうか?
人類の歴史の中ではおそらく32本がちょうどいい時代があったわけですけれど…、最近の現代人はそれを必要としていないらしいんですよね。
最近では、もともと親知らずがない方もけっこうな割合いいます。さらに、先天欠如で親知らずを除く28本の永久歯より、もっと少ない方も比較的いらっしゃるんですね。全然めずらしくない。
人類が歯の本数を必要としなくなってきているということなのかもしれませんし、神様の誰かが決めているのかもしれませんが、その原因、理由はよく分かっていないんです。
必要ではない!?なくなることが多い歯の場所
Q3.どのくらいの割合で先天欠如の方がいるのか教えてください
これがけっこうな割合。学会で調べた資料ですが、とくに欠損の多い場所というのは、真ん中から数えて5番目の歯なんですね。
これは上下左右どの歯にも当てはまるんですけれど、特に下の歯が多いです。下の真ん中の歯から数えて5番目に関しては約3%、100人に3人はないんです。両側ない人もいますよ。
上の歯に関しても1.5%くらい。100人に1人か2人はないわけですね。先天欠如の方は増えているんじゃないかなと感じています。
※下顎の、前歯から数えて5番目の歯が先天欠如でなくなっている割合が高いことが分かるグラフです。ただし、調査結果は先天欠如の治療を目的として来院された患者さんのデータが含まれているため、ランダム調査で得られるデータと比較し有病者率は高めの数値となっている可能性があります。
グラフ作成に参考とした調査結果:日本小児歯科学会学術委員会「日本人小児の永久歯先天性欠如に関する疫学調査」
虫歯と遺伝の関係性!
Q4.虫歯は遺伝するのでしょうか?
大変気になるところですけれども、人が持つ遺伝子レベルで考えますと「虫歯をつくりやすい遺伝子」というのは特に発見されていないです。
虫歯に直接結び付くような遺伝子はないんですけれども、「こういう特徴があると虫歯になりやすい」ということは、親から子に遺伝するということがありえます。
具体的には、唾液の性質、唾液の分泌量などに関係していて、唾液がたくさん出る方が虫歯になりにくいわけですね。唾液腺の性質とか唾液そのもの、唾液をたくさん出せるかどうかといったことは、遺伝する可能性があります。
唾液の出にくいお父さん、お母さんですと子供たちも、もしかすると唾液が出にくく虫歯になりやすいかもしれません。
虫歯ができにくい!親から子に遺伝する唾液の性質
Q5.どういった唾液の性質が遺伝するといいのか教えてください
唾液の組成(そせい)ですね。免疫機能を高める成分をたくさん含んでいる唾液の特徴が、親から子に遺伝すると、虫歯になりにくいと思います。
歯の表面が酸性になるから虫歯になるわけですよね。したがって酸性になりにくい唾液、すなわち緩衝能(かんしょうのう)の高い唾液を分泌できる親ですと、お子さんが同じような唾液の性質を受け継いだ場合は、虫歯になりにくくなります。
そのため、歯磨きを熱心にやっていないのに虫歯ができていないというお子さん、あるいはお父さん、お母さん、そういう一家もいるかもしれません。
まとめ
人類の進化の過程で、32本がちょうどよかった時代もあった永久歯ですが、その常識も変わりつつあるということが分かりました。
また、原因について詳しいことは分かっていないといいます。噛む機会が減っていくと、この先もっと少ない歯になっていくのかもしれませんね。
さらに、唾液の性質が子供に遺伝することがあるといいます。親御さんの口内事情を知ることで、子供たちのケアにつなげられるのかもしれません。
※次の記事「10回以上は通院?子供の虫歯治療の流れと期間」
日本大学 歯学部 小児歯科学講座 教授
【略歴】
1986年~1989年:北海道大学歯学部附属病院 助手
1989年~2002年:北海道大学歯学部附属病院 講師
2002年~2003年:北海道大学歯学部附属病院 高次口腔医療センター 助教授
2003年~2006年:北海道大学病院 高次口腔医療センター 助教授
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。