口の中に「できもの」が発生して痛い…。そんなときは、食事をとるのも憂鬱(ゆううつ)になります。
ところで、「口の中のできもの=口内炎」と軽く考えていませんか?もちろん、自然に収まる口内炎も多くありますが、中には注意が必要な病気も存在します。
こちらの記事では「口の中に発生するできもの全般」を扱い、口腔内の健康を守るための基礎知識をお届けします。「口の中が痛い…」という悩みを解消するため、基本的な治し方についても言及しています。
この記事の目次
1.口の中にある「痛いできもの」は口内炎…?
口の中に「できもの」を見つけたとき、「口内炎ができたのかな?」と考える方は多いでしょう。実際、口の中の「できもの」は、口内炎であることが多いです。
ただ、口内炎にはたくさんの種類が存在していて、それぞれに症状・治療法が異なります。そこで、まずは口内炎の種類を列挙し、基本的な症状・治療法」をまとめることにしましょう。
1-1 アフタ性口内炎
もっとも基本的な口内炎は「アフタ性口内炎」と呼ばれるものです。皆さんが「口内炎」と認識しているのがアフタ性口内炎で、口の中に発生する「痛いできもの」の代表格とでもいうべき存在です。
アフタ性口内炎 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜・口唇・口腔底など |
色 | 白色(灰白色~黄白色) |
形状 | 2~6ミリほどの円形・楕円形 |
凹凸 | やや窪んだ潰瘍 |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多くは1~3個程度 |
痛みの程度 | 強い~非常に強い |
口腔粘膜のほとんど全域に発生する口内炎で、刺激に対して痛みを覚えるのが特徴です。
「食べ物・歯などの物理的接触」「辛味・酸味などの刺激物」に対して、強い痛みを感じます。ただ、何も刺激を与えなければ、それほど痛むことはありません。
発症メカニズムははっきりしていませんが、「発症率を高めるリスクファクター」はいくつか知られています。
基本的な要因の1つは、慢性疲労・睡眠不足・ストレスなど「広義の体調不良」です。もう1つはビタミンB群・鉄分などが欠乏する「栄養不良」です。
これらの問題に加えて、「口腔内の不衛生」「継続的な物理刺激」「ドライマウス」といった要因が重なると、アフタ性口内炎の発症率が高まると考えられています。
ちなみに「継続的な物理刺激」というのは、特定の部位に物理的刺激が加わり続けることを指しています。「破折して、尖った部分のある歯」「入れ歯の鋭利な金具」などがあると、舌・頬粘膜を日常的に刺激する恐れがあります。
日常的に刺激を受けている部位にアフタ性口内炎が発生した場合、刺激の発生要因を取り除くことが大切です。
アフタ性口内炎の治し方
重症でなければ、自然に収まるのを待つのもよいでしょう。普通は1~2週間のうちに軽快します。
ただ、一度に5個以上の口内炎が発生していたり、6ミリを超える大きな潰瘍が見られたりするなら、医療機関を受診することをおすすめします。
医療機関では、基本的に炎症を鎮めてを治りを早める対症療法をおこないます。
抗炎症剤として、口腔用のステロイド剤を処方される可能性が高いでしょう。多くは「トリアムシノロンアセトニド口腔軟膏(商品名:ケナログetc.)」「デキサメタゾン軟膏(商品名:CH / イワキetc.)」などを用います。
そのほか、同じ箇所に何度も口内炎ができる場合は、レーザーで患部を灼(や)く治療がおこなわれる場合もあります。
昔は「硝酸銀」という薬品で灼いていましたが、硝酸銀に毒性があることから、近年はほとんど使われなくなりました。
1-2 カタル性口内炎
アフタ性口内炎ほど頻繁ではありませんが、「カタル性口内炎」もよく見かける種類の口内炎です。「赤色のできもの」をともなう口内炎なので、外見的特徴から「紅斑性口内炎」と表現されることもあります。
カタル性口内炎 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜など |
色 | 赤色~紅色 |
形状 | 小さな斑点で、周辺が全体的に赤く腫れる |
凹凸 | 紅斑はやや膨らんでいることもある |
周囲との境界線 | 不明瞭 |
同時発生個数 | 多数の斑点 |
痛みの程度 | 弱いが、熱感がある |
たくさんの紅斑ができて、まわりが全体的に赤く腫れることが多いです。
ただ、紅斑のまわりも赤く腫れるので、それほど紅斑が目立たないこともあります。何もしていないときはほとんど痛みませんが、「ヒリヒリとして、熱い感覚がある」と訴える人もいます。
また、辛味など刺激物を口にすると痛みが出ることもあるでしょう。悪化すると、「口臭が強くなる」「粘りの強い唾液が多量に分泌される」といった症状が出てきます。
「体調不良」「口腔内の不衛生」といった基礎的な要因に「物理的刺激」が加わると、カタル性口内炎の発症率が高まります。
「入れ歯の金具が当たる」「割れて尖った歯に刺激される」といった問題は、カタル性口内炎を誘発する恐れがあります。
カタル性口内炎の治し方
基本的には、自然に収まるのを待つことが多いです。1週間~10日もあれば、症状は軽快するでしょう。
ただ、患部周辺が細菌感染すると炎症が広がるので、口腔内を衛生的に保つよう努力してください。
口腔内の衛生管理には、刺激の少ない「うがい薬」がおすすめです。歯周病リスクを低減するなど、口腔内の消毒に適した「クロルヘキシジン(商品名:コンクール)」を使うと良いでしょう。
クロルヘキシジンを主成分とする製品が手元になければ、「ポビドンヨード(商品名:イソジン)」「アズレンスルホン酸ナトリウム水和物(商品名:アズレン)」などを用いても構いません。
もちろん、治りを早めたいなら、医療機関を受診しても良いでしょう。基本は消炎剤として、ステロイド軟膏が処方されます。
1-3 カンジダ性口内炎
「カンジダ性口内炎」は、カンジダ菌に感染することで発症する口内炎です。別名で口腔カンジダ症と呼ぶこともあります。
「偽膜性カンジダ症」「萎縮性カンジダ症」「肥厚性カンジダ症」の3種類が存在しており、それぞれに特徴が異なります。まずは、3種類に場合わけして、個々の症状を確認してみましょう。
偽膜性カンジダ症 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜など |
色 | 白色 |
形状 | 苔状の膜で斑紋状・線状・点状のいずれか |
凹凸 | ほとんどなし |
周囲との境界線 | 不明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、ひと続きの病変1箇所 |
痛みの程度 | なし~非常に弱い |
萎縮性カンジダ症 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜など |
色 | 赤色 |
形状 | 一定範囲が発赤 |
凹凸 | なし |
周囲との境界線 | 不明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、ひと続きの病変1箇所 |
痛みの程度 | 弱いが、熱感がある |
肥厚性カンジダ症 | |
発生部位 | 舌・頬粘膜 |
色 | 白色・赤色・肉色など |
形状 | 表面が隆起し、硬く皮膚のように角化 |
凹凸 | 隆起 |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多くは1個 |
痛みの程度 | なし |
同じカンジダ性口内炎でも、種別によって外見的特徴が大きく変わってきます。
ただ、カンジダ性口内炎のほとんどは偽膜性カンジダ症です。「苔状の、もやもやした病変」はガーゼなどで擦ると剥がれますが、剥がすと発赤・出血・びらん(ただれ)が見られることが多いです。
無理に剥がした場合、ほとんどの場合痛みが悪化します。
カンジダ菌それ自体は、口腔内にもともと棲んでいる常在菌です。つまり、誰の口の中にも存在する「ありふれた菌」に過ぎません。
当然、感染力も低く、それほど警戒するべき菌とは言えないのです。実際、健康で若い人が感染することはほとんどありません。
ただ、抵抗力が低い赤ちゃんや高齢者、あるいは若い人でも疲労などの免疫力が弱ったタイミングでカンジダ菌が増殖し、発症することがあります。
また、口腔内を不衛生にしていたり、入れ歯の洗浄を怠ったりすると、口腔内のカンジダ菌が爆発的に増えて、カンジダ性口内炎を発症することがあります。
入れ歯に起因する場合、たいてい、入れ歯が接触している部分に沿って口内炎が現れます。
カンジダ性口内炎の治し方
原因菌のカンジダ菌は、真菌と呼ばれる種類に属します。真菌というのは「カビ・キノコ・酵母」などの菌類を指す言葉です。
真菌による感染症を治療するには、「抗真菌薬」と呼ばれる薬剤を用います。真菌の生育を抑制し、早期修復を促す薬です。
カンジダ菌はカビの仲間なので、抗真菌薬の中でも「カビが有する植物性細胞膜の合成を阻害する薬―アゾール系抗真菌薬」が多用されます。
細胞膜をつくるために不可欠な成分(エルゴステロール)の合成に用いる酵素―シトクロムP450の働きを阻害する、という作用機序です。
別の作用機序を有する薬剤としては、「細胞壁の合成を阻害する薬―キャンディン系抗真菌薬」も存在します。真菌の細胞壁を構成している成分(β-Dグルカン)が合成できないようにする薬です。
ただ、キャンディン系は点滴薬として、カンジダ菌が内臓感染したケースなどに用いられています。口内炎など、表在型の感染症にはまず使われません。
ところで、抗生物質の長期連用・多用もカンジダ感染症の原因になります。「菌」という言葉の定義を理解していないとわかりにくいので、いったん「菌の種別」を解説することにしましょう。
世間一般で「菌」と呼ばれる生き物には、「真菌」「真正細菌(細菌=バクテリア)」「古細菌(アーキア)」の3種類が存在します。そして、抗生物質が効き目を発揮するのは、真正細菌と古細菌だけです。
ただ、古細菌の多くは極限環境で生存するなど、特殊な進化をたどった生物なのであまり気にしなくて構いません。
2015年に「病原性を有する古細菌の存在」が指摘されるまで、病原体にはなり得ないと考えられてきた「別枠の存在」です。
さて、真菌と真正細菌は、原則、ライバル関係にあると考えてください。どちらがより増殖するか、勢力争いをしているわけです。
ということは、真正細菌を殺菌することは、間接的に真菌へのアシストになります。真正細菌が減ったぶん、真菌がどんどん増殖できるからです。
以上から、抗生物質の長期連用・多用は真菌感染症の原因になり得ると言えます。
もちろん、真菌感染症に対して、抗生物質を用いるのはNGです。「真菌感染症のとき、抗生物質で真正細菌を抑えること」は、真菌をさらに増殖させることにつながるからです。
「真菌には抗真菌薬」
「真正細菌には抗生物質」
と使い分けなくてはなりません。
1-4 ヘルペス性口内炎
「ヘルペス性口内炎」は、ウイルスによって起こる口内炎です。唇の周囲に水ぶくれなどの「できもの」が現れる「口唇ヘルペス」と同じく、「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」によって発症します。
ヘルペス性口内炎 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜・口腔底・喉など |
色 | 白色・赤色 |
形状 | 周囲が赤く、真ん中が白い水疱(水ぶくれ) |
凹凸 | 隆起 |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多数の水疱 |
痛みの程度 | 強い~非常に強い |
ヘルペス性口内炎では、口腔内のほぼ全体に水疱が現れます。
かなり強い痛みがあり、飲食・会話に困難を感じることが多いです。特定部位だけでなく、唇・喉などを含めた広範囲に水疱ができる傾向にあるので、ほかの口内炎と判別するのは難しくありません。
さて、原因となる病原体は「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」ですが、このウイルスは主に、親御さんや兄弟など身近な人から乳幼児に感染します。
ただ、必ずしも「HSV-1が体内に入ったときにヘルペス性口内炎を発症する」というものではありません。
潜伏期間を経て発症することもあれば、大人になってから初めて感染し、ヘルペス性口内炎を発症することもあります。
ヘルペスウイルスは体内から根絶することができず、一度でも感染すると、ずっと体内に棲み続ける性質を持っています。
そのため、「すでに体内に棲んでいるウイルスが何かの拍子に暴れ出すと発症(再発)する」ことがあります。
「初感染のとき」と「再発例」では症状が大きく異なります。
初感染で発症すると、多くの場合、口腔内だけでなく顔や体の広範囲に水疱を生じ 、発熱・倦怠感などの全身症状をともなう傾向があります。
一方、再発例では「唇の周囲に水疱ができる(口唇ヘルペス)」ケースが多く、たまに「口腔内に水疱ができる(ヘルペス性口内炎)」こともありますが、いずれも局所的な症状にとどまります。
ヘルペス性口内炎の治し方
ヘルペス性口内炎はウイルス感染症ですから、治療にあたっては抗ウイルス薬を用います。
ただし、ヘルペスウイルスを体内から根絶する薬は存在しません。ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス薬は、あくまでも「ウイルスの増殖を抑え治りを早める薬」です。
さて、ヘルペスウイルスは細胞に感染して、正常細胞を「ウイルス感染細胞」に変えます。その後、細胞の複製能力を使って、自分のDNAをコピーさせていくのです。
そこで、DNAをコピーするのに必要な酵素―DNAポリメラーゼの働きを抑えれば、増殖を妨害することができます。ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス薬は、このような作用機序で、ウイルスの増殖を抑えています。
以上の事実から、(現状、ヘルペス性口内炎のような単純疱疹に対して承認されている薬は)「DNAポリメラーゼ阻害薬」と呼ばれています。
ヘルペス性口内炎の治療に用いる「DNAポリメラーゼ阻害薬」には、「アシクロビル(商品名:ゾビラックス)」「ファムシクロビル(商品名:ファムビル)」「バラシクロビル(商品名:バルトレックス)」などがあります。
ちなみに、塗り薬に関しては「ヘルペス治療薬」が市販されていますが、市販薬の適応症は「口唇ヘルペスの再発例」だけです。初感染によるヘルペス性口内炎は適応外なので、原則使用できません。
そもそも、ヘルペスウイルスによるものか自己判断することは難しく、万が一市販薬を使用してしまうと症状が悪化する恐れもあります。そのため、医療機関を受診して、内服薬を処方してもらいましょう。
2.口内炎だけではない!口の中の「できもの」
口の中に発生する「できもの」だからといって、必ずしも口内炎とは限りません。ここまでに紹介した口内炎にあてはまっていないようなら、「ほかの病気ではないか?」と疑ってみましょう。
この章では、口の中に発生する「できもの」の中で、口内炎以外のものを解説します。
2-1 粘液嚢胞
もし、白色(やや半透明)の水ぶくれがだんだん大きくなっているなら、「粘液嚢胞」かもしれません。
「水ぶくれの発生部位を噛んだ記憶がある」「食品の一部が刺さった記憶がある」というなら、高確率で粘液嚢胞が疑われます。
粘液嚢胞 | |
発生部位 | 口唇の裏・頬粘膜・口腔底など |
色 | 白色~半透明 |
形状 | 1・5~5・0ミリほどの水疱 |
凹凸 | 隆起 |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、1個 |
痛みの程度 | なし |
口腔内に唾液を供給しているのは大唾液腺・小唾液腺と呼ばれる部位です。このうち、粘液嚢胞の原因になるのは小唾液腺です。
さて、小唾液腺を歯で噛んでしまったり、魚の骨が刺さってしまったりすると、出口の部分が塞がることがあります。唾液の出口を「噛みつぶした」「刺しつぶした」ということです。
こうなると、もう小唾液腺には出口がありません。
しかし、唾液の供給は続きますから、行き場をなくして粘膜内に溜まっていくのです。結果、粘膜が押し広げられて、水ぶくれが形成されることになります。
唾液の供給は止まりませんから、水ぶくれはどんどん大きくなっていきます。
「舌・指で押しつぶす」「歯で噛む」などすれば、粘液嚢胞は容易に破れます。噛んだときに粘膜が傷つくと痛むこともありますが、唾液が溜まっているだけの水ぶくれですから、基本的にはつぶしても痛みは出ません。
しかし、唾液腺の出口が塞がっていることに変わりはないので、高い確率で再発します。何度も、「再発→巨大化→破れる→再発」というサイクルを繰り返すことが多いです。
粘液嚢胞の治し方
単なる「唾液の入った水ぶくれ」なので、痛みもなく、健康に害もありません。しかし、何度も再発しては大きくなるので、大きさや発生部位によっては邪魔に感じることがあるかもしれません。
この治療法は、外科的切除です。嚢胞に加えて、原因となっている小唾液腺を切除します。手術の所要時間は15~30分程度で、術後の痛みもほとんどありません。
最近では、レーザーを用いて粘液嚢胞を切除する例も増えています。出血が少なく、小さな粘液嚢胞を切除するぶんには縫合の必要もありません。炭酸ガスレーザー、エルビウムヤグレーザーなどが用いられます。
そのほか、薬剤で腫れを収縮させる「OK-432嚢胞内注入」、液体窒素で凍結させる「凍結外科療法」なども存在しますが、あまり広く用いられているわけではありません。
2-2 エプーリス(限局性歯肉種)
歯茎に「できもの」が生じて、だんだん大きくなっている場合は「エプーリス」かもしれません。「歯と歯の隙間」から発生することが多く、ゆっくりと成長していきます。悪性腫瘍と異なり、生命に危険が及ぶことはありません。
エプーリス | |
発生部位 | 歯肉 |
色 | 肉色~桃色 |
形状 | 歯肉の一部が大きく膨れあがる |
凹凸 | 隆起 |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、1個 |
痛みの程度 | 触れると痛むことがある |
エプーリスは良性腫瘤なので、悪性腫瘍とはまったく異なります。周囲の組織に浸潤したり、ほかの臓器に遠隔転移したりする心配はありません。
ただし、「歯と歯の間」で巨大化するので、「歯が傾く」「歯の位置が移動する」など歯列に悪影響を与える恐れがあります。
適合していない詰め物・かぶせ物などの「物理的刺激」、歯石・歯肉炎などによる「炎症性刺激」がエプーリスの要因になると考えられています。
そのほか、女性ホルモン(エストロゲン)・黄体ホルモン(プロゲステロン)などの内分泌異常も、エプーリスの誘発因子とされています。
実際、女性の罹患率が男性の2倍となっており、女性ホルモンの関連を疑うには十分な根拠があるといえるでしょう。
エプーリスの治し方
物理的刺激・炎症性刺激が原因のエプーリスは、自然に収まることがありません。そのため、「歯列に悪影響が出る前に外科的切除をおこなう」というのが基本的な治療法になります。
ただ、妊娠中ホルモンバランスが変わったことで生じる「妊娠性エプーリス」に関しては、出産後に自然に収まることがあります。そのため、妊娠性エプーリスは経過観察にとどめることが多いです。
2-3 サイナストラクト(フィステル)
大きな虫歯(または治療済みの歯)の根元あたりに「白いできもの」が発生しているなら、「サイナストラクト」かもしれません。この場合、問題が起きているのは歯茎ではなく「歯の内部」です。
サイナストラクト | |
発生部位 | 歯肉 |
色 | 白色~黄白色 |
形状 | 歯肉の一部が膨れ、膿が出てくる |
凹凸 | 隆起 |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、1個 |
痛みの程度 | 弱い~中程度で、押すと痛みが強まる |
虫歯が極度に悪化すると、歯髄(神経)が死んで、痛みを感じなくなります。
しかし、歯髄が死んだ歯は「失活歯」といって、事実上、歯としても死んでいるのです。そのため、もはや虫歯菌に抵抗することはできません。歯の内部は「虫歯菌の巣窟」になってしまいます。
治療済みの歯で虫歯が再発した場合も同様です。
「抜髄(神経を抜く処置)」をしている歯は痛みを感じないので、虫歯が再発しても気づくことができません。結果、歯の内部が虫歯菌にどんどん汚染されてしまうのです。
歯に入りこんだ虫歯菌は、歯髄腔(神経の入っていた空間)から根管(血管・神経の通り道)を経て、歯の根元を汚染します。歯の根元で炎症が起こるのです。
この炎症を指して「根尖性歯周炎」と呼んでいます。
また、炎症部位の周辺は歯槽骨(歯を支える骨)が溶けるので、レントゲンで黒く映ります。「レントゲン撮影で黒く映る病変部」を指して「根尖病変」と呼称します。
さて、炎症部位である「歯の根元」には、だんだんと膿が溜まっていきます。歯根周囲に膿が溜まると、歯茎に「膿を外に出すための排出口」が形成されます。
これが「サイナストラクト」であり、歯茎に生じる「白いできもの」の正体です。
サイナストラクトの治し方
歯茎に病変らしきものが発生してはいますが、問題があるのは「歯の内部」です。
細菌は、歯の内部から「歯の根元にあたる歯茎」に移動しています。歯を治療しない限り、歯茎への細菌流入は止まりません。要するに、炎症も治まりません。
そこで、歯の内部を無菌化する「感染根管治療」をおこないます。ファイルという「針の先端がヤスリ状になった器具」を用いて、歯の内部にある汚染歯質を除去するのです。
さらに、歯の内部にある根管を拡大・形成して、薬品で中を洗浄・消毒します。こうして、歯の内部をきれいにしていくわけです。
内部が無菌化できたら、最後に再感染防止の薬剤(ガッタパーチャポイント・MTAなど)を詰めて、上から詰め物・かぶせ物を入れます。
ここまでの一連の歯科治療を指して、「感染根管治療」と呼んでいます。
3.要注意!口腔がんと関連する口の中の「できもの」
口の中に発生する「できもの」の中には、「将来的にがん化する恐れがあるもの」も存在しています。「将来、がん化するかもしれない病変」を「前がん病変」と呼びます。
この章では、注意深く経過観察するべき「前がん病変」を解説します。
3-1 口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)
口腔粘膜に「白色または赤色で、ひとつながりに広がった病変」を見かけたら、「口腔扁平苔癬」を疑ってください。外見的特徴はさまざまですが、「レース状の病変」などと表現されることが多いです。
口腔扁平苔癬 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜・口腔底など |
色 | 白色・赤色 |
形状 | 発赤・びらん・水疱・網状模様など |
凹凸 | 潰瘍・隆起・平坦のいずれも存在 |
周囲との境界線 | 不明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、ひと続きの病変1箇所 |
痛みの程度 | 中程度 |
痛みを訴える人が多いですが、全員が「痛い」と訴えるわけではありません。
症状は人によりさまざまで、「患部が灼ける感覚」「口腔内の不快感」「味覚異常」「出血」など多岐にわたる自覚症状が知られています。
原因ははっきりと解明されているわけではありませんが、「自己免疫性疾患の一種ではないか」という説が有力です。「免疫細胞が、本人の粘膜にある基底細胞を攻撃することで発症する」と考えられています。
口腔扁平苔癬の治し方
基本的に対症療法になります。具体的には、「ステロイド系抗炎症剤」を用いるなどして、炎症・痛みを抑えながら経過観察するのが基本の方法です。
口腔扁平苔癬は前がん病変の1つですが、がん化するのは1%程度とされています。定期的に経過観察し、がん化の兆候があれば外科的切除…という流れになるでしょう。
3-2 口腔白板症
口腔粘膜の一部が白く変色して盛りあがってきた場合、「口腔白板症」かもしれません。基本的に痛みは出ませんが、注意深く観察するべき前がん病変の1つです。
口腔白板症 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜など |
色 | 白色 |
形状 | 白くなった部分が盛りあがる |
凹凸 | 隆起 |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、1個 |
痛みの程度 | ほとんどないが、悪化すると痛むこともある |
口腔内の白い「できもの」が2週間以上にわたって改善しないなら、口腔白板症を疑うべきでしょう。
アフタ性口内炎などの「白い口内炎」は、遅くとも2週間で収まってきます。2週間で改善の兆候さえ見られないならば、単なる口内炎ではない可能性が高くなります。
口腔白板症はだんだん大きくなり、最終的に3~5%ががん化する前がん病変です。
放置すると赤い斑点が混じって「紅斑混在型」になります。口腔白板症は基本的に痛みをともないませんが、紅斑が混じる段階になると「痛い」と感じる人も出てきます。
口腔白板症の治し方
治療方法は外科的切除しかありませんが、基本は経過観察になります。
なぜなら、がん化する確率は数%なので、「がん化の兆候が出てくる」「口腔機能に弊害が出るほど大きくなる」といった状況にならなければ、切除する必要はないことが多いわけです。
とはいえ、がん化したときは、上皮内がん(ごく初期)のうちに切除するのが望ましいといえます。判断は医療機関で診てもらわないと難しいので、定期的に、歯科口腔外科を受診するようにしてください。
3-3 紅板症
口腔内に「赤いできもの」が発生し、盛りあがってきた…という場合、「紅板症」の疑いがあります。紅板症は、とくにハイリスクな前がん病変として知られています。
紅板症 | |
発生部位 | 舌・歯茎・頬粘膜など |
色 | 赤色~紅色 |
形状 | 赤くなった部分が盛りあがる |
凹凸 | 隆起(ただし、一部に潰瘍がある場合も) |
周囲との境界線 | 明瞭 |
同時発生個数 | 多くは、1個 |
痛みの程度 | ほとんどないが、発生初期に痛むことがある |
粘膜の一部が赤く盛りあがり、表面がつやつやした質感になっている場合は注意が必要です。「できもの」は全体として盛りあがっていますが、一部だけが窪んでいる(=潰瘍)場合もあります。
痛みは出ませんが、紅板症が形成される過程で、ピリピリとした刺激痛を感じる人もいます。「刺激痛のあった箇所が赤く盛りあがってきた」というケースでは、紅板症が疑われます。
紅板症の治し方
紅板症は全体の約50%が口腔がんに変わる…と考えられている前がん病変です。紅板症が疑われる病変が見つかったら、すぐに歯科口腔外科を受診するようにしてください。
たいてい、まずは組織の一部を切り取って検査する「生検」をおこない、がん化の有無を調べます。紅板症の場合、受診の時点でがん化していることも珍しくありません。
生検の結果、「がん化している」「がん化する確率が高い」と判断されれば、外科切除になります。仮にがん化していても「紅板症」と思われる階で発見できれば「上皮内がん」にとどまっていることが多いです。
上皮内がんは手術で除去することができ、転移もほとんどないと言われています。上皮内がんの段階であれば、むしろ「早期発見できて幸運だった」と受け止めましょう。
4.まとめ
口の中の「できもの」にはさまざまな種類があり、「収まるのにかかる期間」「治療方法」などもそれぞれ異なっています。
中にはがん化する恐れのある前がん病変も含まれていて、一概に「どうせ口内炎だ」と軽視することはできません。
「痛いから危険」「痛みが出ていないから大丈夫」というものでもなく、自己判断するのはリスキーです。
そこで、「遅くとも2週間で改善しなければ、歯科・歯科口腔外科を受診する」という指標を頭に入れるようにしてください。
2週間で改善の兆候すら見られない場合は、単なる口内炎ではないかもしれません。迷わず、医療機関を受診しましょう。
口腔内に発生するモノだけでもいろいろあります。自分勝手な診断は避けましょう!専門の意見を仰ぐようにしましょう!
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。