歯ぎしりがもたらすのは、「歯を擦りあわせる音」だけではありません。歯ぎしりをする癖があると、歯の寿命を縮める原因になります。
こちらの記事では、「歯ぎしりに悩んでいる」という人に向けて「歯ぎしりの原因」を解説しています。また、「歯ぎしりがもたらす悪影響」にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
1.歯ぎしりの種類とその原因
「歯ぎしりは、歯を左右に擦りあわせること」と考えられていますが、それだけではありません。歯ぎしりには3つの種類が存在しています。この章では、「歯ぎしりの分類」を確認し、それぞれの原因を見ていきましょう。
1-1 歯ぎしりには3つの種類がある!
歯ぎしりには、3つの種類が存在します。歯ぎしり全体のことを「ブラキシズム」と呼んでいて、それぞれの特徴ごとに「グラインディング」「クレンチング」「タッピング」と呼称しています。
グラインディング
「グラインディング」は、歯を強く噛み合わせた状態で左右に擦りあわせることです。「歯ぎしり」というと、グラインディングを指すことが多いです。歯は横方向の力に弱いので、歯・歯周組織へのダメージが非常に大きくなります。
クレンチング
「クレンチング」は、歯を強く噛みしめることです。音が鳴らないので、自分も周囲も気づかず、発見が遅れる傾向にあります。
タッピング
「タッピング」は、上下の歯をカチカチと接触させることです。それほど強い力をかけていなくても、何度も噛み合わせるだけで歯は摩耗します。
1-2 歯ぎしりを引き起こす4つの原因
現状、歯ぎしりを起こすメカニズムが全て解明されているわけではありません。しかし、主な場合、歯ぎしりは4つの原因から起こります。
原因①:睡眠時ブラキシズム
「睡眠時ブラキシズム」は、「睡眠中の歯ぎしり」という意味です。睡眠中ブラキシズムの主は「グラインディング」です。睡眠中は、誰でも多少の歯ぎしりをしています。しかし、「頻繁に / 強い力で / 長時間にわたって」の3要素が揃うと「改善するべき悪習慣」となります。
睡眠時ブラキシズムは、「ノンレム睡眠(深い眠り)からレム睡眠(浅い眠り)への移行途中」によく見られます。そのため、慢性的に眠りが浅くなっていると、歯ぎしりが悪化する恐れがあります。
実際、「アルコール」「カフェイン」「ニコチン」は歯ぎしりを悪化させる原因になると考えられています。いずれも、睡眠の質を下げる要因として知られています。眠りが浅くなり、「ノンレム睡眠からレム睡眠への移行」が起こりやすくなるために、歯ぎしりが増加する…と考えられます。
そのほか、心理的原因としては「ストレス」が挙げられます。ストレス過多・不安な精神状態だと、眠れなくなる人がいます。眠りが浅くなることで「ノンレム睡眠からレム睡眠への移行」が増え、歯ぎしりが悪化するわけです。
原因②:逆流性食道炎
胃液の逆流が起こる「逆流性食道炎」も、歯ぎしりの原因となります。この場合、たいていはグラインディング・クレンチングのいずれかになります。睡眠時、胃液が戻ってくるのを防ごうとして、無意識に歯を食いしばったり、擦りあわせたりするからです。
原因③:眼精疲労・過度の集中・激しい運動
眼精疲労を起こしているときにパソコン画面を見続けたり、集中力を要する作業を長く続けたりすると、無意識に歯を食いしばる人がいます。同じように、激しい運動をしているとき、力を入れるタイミングで歯を強く噛みしめる人も多いです。いずれも、クレンチングに相当し、歯に一定のダメージを与えます。
原因④:TCH(歯列接触癖)
正常は、特に何もしてないとき、上下の歯は接触していません。唇を閉じていても、歯はわずかに離れています。この隙間を「安静時空隙(あんせいじくうげき)」と呼びます。しかし、人によっては「上下の歯を接触させるのが癖になっている」という場合があります。この状態が「TCH(歯列接触癖)」です。主にタッピングの原因となります。
上下の歯は基本的に、1日に20分未満しか接触しません。噛み合わせる必要があるのは、「食事のときに噛む瞬間」「会話中のふとした瞬間」くらいです。これが1日20分以上になるとTCHです。人間の噛む力は予想以上に強く、本人の体重と同程度に相当します。50kg前後の圧力がたびたびかかるわけですから、カチカチ噛み合わせるだけでも歯・歯周組織にはダメージが蓄積していきます。
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2.歯ぎしりを放置すると、どんな悪影響が…?
「たかだか歯ぎしりくらい…」と放置している人も多いようですが、歯ぎしりは口腔内の健康に多大な悪影響を及ぼします。この章では、「歯ぎしりがもたらす悪影響」について解説することにしましょう。
2-1 歯の摩耗・破折
歯を強く擦りあわせるグラインディングを繰り返すと、「歯が磨り減る」「歯が折れる・欠ける」などの問題が生じることがあります。「歯根(歯の根っこ)」が割れた場合、抜歯になることもあるので注意が必要です。
2-2 詰め物・かぶせ物の脱落
日常的に強い力がかかっていると、詰め物・かぶせ物を固定している接着剤(セメント)がはがれることがあります。
2-3 知覚過敏
歯を擦りあわせたり、食いしばったりしていると、表面のエナメル質が削られてしまいます。結果、象牙質が露出することになります。象牙質は刺激に弱く、「熱いもの」「冷たいもの」「甘いもの」が触れたときに痛みを感じることがあります。
2-4 顎関節症
歯を噛み合わせると、顎の筋肉・骨にも負担がかかります。結果、顎が慢性的に痛んだり、ゆがんだりする恐れもあります。
2-5 噛み合わせの悪化
歯は物理的に力がかかると動く性質があります。日常的に無理な力が加わっている場合、不正歯列(悪い歯並び)の原因になる恐れがあります。
2-6 咬合性外傷
過度な歯ぎしりを続けていると、歯根膜(歯と歯槽骨をつなぐ組織)などの歯周組織が損傷することがあります。無理な力で噛み合わせたことによる損傷を「咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)」と呼んでいます。
2-7 歯周病の悪化
歯周病は「歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)」が拡大し、内部で歯周病菌が増殖することで悪化します。歯に横方向の力が加わると、歯の根元をぐいぐい押すことになり、歯周ポケットの拡大を促進してしまいます。結果、歯周病の悪化が早まるわけです。
3.まとめ
歯ぎしりを放置すると、将来的に歯を失う原因になる恐れもあります。歯医者さんを受診すれば歯ぎしりの治療をしてもらえるので、歯にダメージが蓄積する前に相談してみましょう。
「スプリント(睡眠時に用いるマウスピース)」を使い、歯ぎしりの圧力を分散する治療法あります。
歯の噛む力はだいたい1歯に体重分かかります。一般的に1日に600回噛むと言われており、詰め物等の歯はいつか壊れてしまい恐れがあるため、歯ぎしり等がある場合は、かかりつけの歯科医に速やかに相談してください。
電話:03-3601-7051
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