皆さんは『口臭』と聞くと、どうしてもマイナスイメージをもたれると思います。自分の口が臭っていないかこまめにチェックできれば、不快な口臭で周囲に迷惑をかけたり、誰かに指摘されて自分自身が傷つくこともありません。
ただ、口臭には、お口や身体の健康状態が悪化した場合に起きる「病的口臭」だけでなく、誰にでも発生する「生理的口臭」も存在します。口臭が発生する原因がわかれば、それに合わせた対策も立てやすくなります。
この記事では、口臭のチェック方法と共に、『なぜ口臭が起きているといえるのか?』をしっかりと理解してもらえるように、口臭発生の原因を5つお伝えしていきます。ぜひ読んで“口臭対策”の参考にしてみてください。
この記事の目次
1.口臭発生の原因5つと簡易チェックリスト
口臭をタイプ別に以下の表に分類し、チェックリストを記載してみました。『自分の口臭が普段から気になっていた』という方は、5つに分類した中で自分に当てはまりそうなものを見つけてみてください。自分の口臭が発生している原因もこれで探ることができます。
口臭にはいろいろな種類があります。自分のお口の中の状態や体調面、精神面が影響して口臭が発生します。自分の私生活を振り返ってみると、口臭の原因を知らないうちに作り出しているかも知れません。
『自分はコレに当てはまる!』というものを見つけられたら、さらに詳しいチェック方法と対策について「2章」以降で紹介していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
1-1 病的口臭(口内の病気)
原因
歯垢が蓄積してガスが発生してしまうのが原因で、虫歯や歯周病も発症し、歯石が溜まると症状が悪化しやすい
★チェックリスト
□毎日の歯磨きを適当に済ませている
□お口の中に歯石が付着している
□歯茎から出血を起こしたことがある
1-2 病的口臭(身体の病気)
原因
消化器系や呼吸器系の病気、肝硬変や糖尿病などが原因
★チェックリスト
□胃の不快感など、身体に異常を感じる
□便秘気味なことが多い
1-3 食べ物や飲み物、喫煙による口臭
原因
ニンニク料理やお酒、タバコなどが原因
★チェックリスト
□臭いの強い食べ物をよく食べる
□お酒が好きで、飲み過ぎる傾向がある
1-4 生理的口臭
原因
起床時や緊張状態、ストレスを受けたときに唾液の分泌量が減り、口の中が渇くことが原因
★チェックリスト
□朝起きたときに口の中が渇いている
□口呼吸をしている
□空腹時に口の中が渇きやすい
□緊張しやすいタイプである
□ストレスを感じることが多い
□舌に白い苔のようなものが付着している
1-5 心理的口臭
原因
実際は口臭が発生していないにも関わらず、自分自身で思い込むことが原因
★チェックリスト
□思い込みが激しい
□歯磨きに対して熱心である
2.お口の「病的口臭」チェックと対策
「病的口臭」は、治療しなければ改善できない口臭のことです。言い換えれば、口臭発生の原因であるその病気を治せれば、不快な口臭は解消されるということです。「病的口臭」は身体の病気もいくつか関係しますが、ほとんどの場合、虫歯や歯周病といった、口内環境を悪化させる病気によるものなので、毎日のオーラルケアを適当に済ませている方は、要注意です!
2-1 歯石の付着や歯茎の出血がないか確認
お口の中を覗いてみて、歯石が付着していたり、歯茎の腫れや出血が確認されたら、口臭が発生している可能性があります。
歯石は、歯垢が「48時間」経過して固まったものです。軽石のように小さな穴があるのが特徴で、歯垢が付着しやすいザラザラとした構造になっています。歯垢は発酵し、口臭の原因となるガスを発生させてしまうため、お口の中に歯石が付着している状態は、口臭発生へとつながってしまうのです。
歯石が溜まって歯茎から出血を起こすような症状は「歯周病」であるといえます。歯磨き時に出血が起き、初めて症状に気づくことがあります。さらに悪化して膿まで排出するようになると、その膿が強烈な臭いを発してしまいますので、早めの対策が肝心なのです。
また、虫歯が進行していて穴が空いている場合、そこに歯垢が溜まって口臭が発生します。歯周病だけでなく、虫歯にも十分に気をつけなければいけません。
2-2 デンタルフロスの使用後の臭いを嗅ぐ
デンタルフロスは、歯磨きで落としきれなかった歯垢を除去することができます。その使い方は歯と歯の隙間にゆっくりと挿入していくのですが、使用後にフロスの臭いを嗅いでみて悪臭がしたら、それは口臭が発生しているということになります。
歯垢は細菌の固まりであり、口臭の原因になるガスも発生させます。フロスに付いた歯垢が臭っているというのは、普段から口臭を発生させているという証拠なのです。
デンタルフロスの使い方について詳しくは『80歳まで自分の歯を残すためのデンタルフロス実践法』を参考にしてください
2-3 歯垢と歯石を除去する
◆歯周病治療
お口の中が正常に保てていないと、口臭が発生する可能性が高まります。もし歯周病の疑いがあれば、すぐに対策を講じましょう。市販の歯槽膿漏薬を使って「セルフケア」に努め、歯医者さんに相談して対処してもらいましょう。歯周病はどんどん進行していきますが、早めの対策で治療もスムーズに終えられることができます。
歯医者さんでは、歯周病の治療のために歯石除去(スケーリング)を行ってくれます。もし歯周ポケット(歯と歯茎の境目)に歯垢や歯石が入り込んだ場合、「SRP」と呼ばれる治療を施してくれます。歯茎が正常に戻れば、口臭の心配も解消されるのです。
◆虫歯治療
虫歯の場合も早めに歯医者さんで治療してもらいましょう。虫歯の部分を削り、詰め物や被せ物で穴を塞いでいきます。また、歯垢が溜まり続けないようにするための、毎日のプラークコントロールも大事になってきます。歯ブラシを上手に使って、自分自身でしっかりと歯垢を除去していきましょう。
歯垢除去について詳しくは『歯垢除去を自分で行う方法と歯医者さんでの効果的な取り方』を参考にしてください
3.身体の「病的口臭」チェックと対策
「病的口臭」には、消化器官の異常などの身体の状態が関係していることがあります。また、糖尿病を患ったり、肝硬変や肝がんといった病気の人は、口臭の原因がそこにある可能性もあります。
3-1 胃の不快感や便秘気味のときは要注意
口臭が気になったら、胃の不快感がないかチェックしてみてください。消化器官である胃の不調は「病的口臭」の原因になります。胃が消化不良を起こしている理由として、暴飲暴食や体調不良による可能性があります。食べ物が消化しきれないと、不快な口臭を招く恐れが出てくるのです。
また、便秘によって便が腸内に滞留していると、有毒なガスが腸管から血管を通って肺に達し、口臭を発生させてしまいます。『このところ便秘気味だな…』と感じている方、自分のお腹の調子は口臭チェックにも当てはまるわけです。
3-2 重篤な病気が口臭を招く
「病的口臭」の中でも、肝硬変や肝がんなど、重い病気にかかっている場合、その病気特有の臭いが口臭として発せられる場合があります。他にも、気管支疾患や糖尿病など、口臭を招く病気がいくつか存在します。
3-3 生活習慣の改善と病気の療養
◆消化不良と便秘の解消
胃の消化不良や便秘の場合、生活習慣を改善することで口臭発生のリスクを減らすことができます。暴飲暴食は胃に負担をかけてしまいますので、夜遅くにたくさん食事をするような生活は改めなければいけません。
また、食べ物が消化しきれずに朝を迎えることで、通勤・通学前の排便の習慣が乱れてしまいます。このような状態が続けば、排便のタイミングを逃し、自ずと便秘気味になってしまいます。
本当に規則正しい生活を送るには、朝ご飯をしっかり食べ、夕ご飯は18時までに摂ることが良いといわれています。しかし、忙しい現代社会で18時までに夕ご飯を済ませるのは難しいことだと思います。ただ、なるべく早めに夕ご飯を済ませ、食物繊維が多く含まれた食事を摂取するなどして、消化不良や便秘を解消していきましょう。
◆病気療養に専念する
重篤な身体の病気による口臭は、お医者さんとしっかり話し合い、その病気が本当に口臭発生の原因なのかどうか確認することも必要です。そして何より、病気療養にしっかり専念することで、健康な身体に戻せるように努めましょう。
4.食事や喫煙後の口臭チェックと対策
口臭には、普段の食生活や喫煙の習慣から発生するものがあります。なかなか臭いを消すことができない食べ物や飲み物を口にしたり、タバコを吸うのが習慣になっている人は、食後や喫煙後の口の臭いが他人に不快な思いをさせている可能性があるのです。
4-1 臭いの強い食事とタバコの成分によって口臭が発生
◆「ニンニク」や「アルコール」の臭いが不快な口臭になる
自分の食生活を省みたとき、臭いの強い食べ物を好んで食べていないでしょうか? 臭いが強く、口臭の原因になる食事の代表として「ニンニク」、「ニラ」、「キムチ」、「アルコール」といった類のものが挙げられます。
ニンニクは特に強い臭いを発しますが、焼肉やラーメン、ステーキといった日本人の大好きな食事によく含まれています。ニンニク自体をメインに食べなくても、焼肉のタレやステーキのソース、ラーメンのスープに含まれることで、意識せずに口にしてしまっていることが多いと思います。
また、ビールや日本酒などのアルコール類を毎日欠かさず飲んでいる方、飲み過ぎる傾向にある方は、周囲の人たちに“酒臭い”人物という印象を与えているかもしれません。
◆毎日の喫煙で口臭の原因になる“ヤニ”が歯に付着
口臭の原因には、タバコによる“ヤニ臭さ”があります。タバコを吸わない人にとっては、タバコの臭いが不快に感じてしまうものです。タバコには「タール」と「ニコチン」と呼ばれる有害物質が含まれています。タールはいわゆる“ヤニ”のことで、これが歯の裏側に付着してしまうことで口臭を発生させます。
また、タバコに含まれるニコチンは、口内の血液の循環に悪影響を及ぼします。これにより、唾液の分泌量が減ってしまうことで口が渇き、細菌が増えることで口臭を発生させるのです。
さらに、タバコを吸うことで「歯周病」になるケースが増えてしまいます。これは、ニコチンによる血液への悪影響が原因であるのと、タバコのもう一つの有害物質である「一酸化炭素」が歯周病に対する治癒力を妨げてしまうのです。
4-2 機器を使った口臭チェックと対策
◆口臭チェッカーで瞬時に口臭チェック
食後や喫煙後、自分の口臭がどれくらいなのか、口臭チェッカー(ブレスチェッカー)で測定できるようになりました。
ブレスチェッカーは、持ち運びが可能な「ポケットサイズ」で、自分の口の臭いが気になったときにサッと取り出してチェックすることができます。
機器に直接息を吹きかけるとおよそ「5秒」で自分の口の臭いを判定してくれます。数値は「0~5」の6段階などいくつかの段階で評価してくれます。なかには数値と一緒に可愛らしいイラストも表示してくれるブレスチェッカーも有ります。
ただ、いずれの製品にしても、臭いの数値に関しては参考程度に考えておきましょう。臭いの強い食事をしたあとの“簡易チェック方法”として取り入れましょう。食事以外のケースで口臭が本当に気になっているような方は、歯医者さんの口臭外来で、「ガスクロマトグラフィー」と呼ばれる機器を使用した口臭測定を行うことも可能です。
◆ニンニクやアルコール類の臭いを消す対策
ブレスチェッカーで臭いを判定できたら、その臭いを消す打開策を見つけなければいけません。ニンニクやアルコール類は、臭いの成分が身体の中の血液中に作られてしまうので、すぐにに臭いを消すことができません。
対策としては、臭いの成分が身体の中に吸収されてしまう前に、緑茶を飲んだり、りんごを口にすると有用であるといわれています。緑茶には『葉緑素(ようりょくそ)』、りんごには『ポリフェノール』と呼ばれる、臭いを打ち消す成分がそれぞれ含まれています。
◆タバコによる口臭の対策
喫煙によって付着した歯のヤニは、歯医者さんで「クリーニング」を行って除去してもらいましょう。また、ニコチンによって口の中が渇いてしまい口臭が発生するので、こまめに水分補給を行うことで口内を潤してあげましょう。
ただ、根本的な解決は、やはり「禁煙」しかありません。タバコを吸うことをやめなければ、また、すぐにヤニは付着してしまいます。毎日の喫煙習慣は、健康被害を増大させてしまうだけなのです。
5.誰にでも起きる「生理的口臭」のチェックと対策
「生理的口臭」とは、これまで紹介してきたものとは異なり、誰にでも起きる口臭のことです。起床時や空腹時、緊張状態やストレスを抱えたときに、口の中が渇いて口臭が発生してしまうことをいいます。この生理的口臭は“哺乳類”であれば発生してしまいます。
5-1 口の中が渇くことで口臭が発生
朝起きたときや空腹時は、誰もが口の中が渇いて潤いを失った状態です。また、睡眠時に「口呼吸」をする人は唾液の分泌量が減ることで口臭が発生しやすくなります。しかし、緊張やストレスは人によって感じ方がさまざまで、同じ状況ですべての人が、口内の渇きを感じるとは限りません。
また、口臭が起きていることを何かの病気が原因と捉えてしまい、「病的口臭」と思っていたが、実は「生理的口臭」だったということも考えられます。口臭が発生していたときのことを思い返してみたら、緊張やストレスを受けやすい場面だったことに気づくかもしれません。
口臭が発生した“状況”まで思い出すことで、自分の口臭が一体何なのかをチェックすることができるのです。もしかしたら、治療の必要のない「生理的口臭」かもしれません。
◆「生理的口臭」により『舌苔(ぜったい)』ができる
「生理的口臭」が原因で、『舌苔(ぜったい)』と呼ばれる舌に白い苔のようなものが付着し、口臭を発生させてしまうことがあります。“白い苔”とは、口内の細菌が舌の溝に入り込んで溜まり続け、もともとはピンク色をしている舌の表面が、白く汚れたようになった状態のことを指しています。
舌苔ができる原因として、唾液量が少なくなり口内が渇くということが挙げられます。唾液が減ると口内で細菌が溜まりやすくなるので、舌苔が付着しやすくなるのです。
口呼吸をしている人やストレスを溜めやすい人などは、口の中が渇きやすいといわれているので、舌苔は「生理的口臭」の一部であるといわれることが多いのです。
5-2 口内を潤す対策と舌苔の除去
◆水分補給とガムを噛むことで口臭を防ぐ
口の中が“砂漠状態”でカラカラの場合、水分を補給するようにしてください。「生理的口臭」が起きやすい人は、ペットボトルの水を携帯したり、ガムを噛んで唾液の分泌量を増やすなどの対策で口臭を防いでいきましょう。
また、起床時に関しては、口の中を水でゆすいだり、ガラガラうがいをすることで口内の細菌を追い出すように努めてください。
「生理的口臭」は一時的なものです。唾液量を正常に戻すための作業を行い、緊張やストレスが緩和されれば、自然と口臭は治まってきます。
◆舌ブラシによる舌苔の除去
口臭の原因にもなる舌苔を除去するには、「舌ブラシ」を使う方法があります。舌ブラシの使い方は、鏡を見ながら舌の表面に付いた舌苔を、水で濡らした舌ブラシで磨いていきます。その際、下記イラストのように舌の奥の方から手前に引くようにして磨いてみてください。
ただ、舌ブラシは過度に使用すると舌の粘膜を傷つけてしまう場合があるので、起床時の1回だけにしておきましょう。
6.「心理的口臭」のチェックと対策
口臭の種類には「心理的口臭」と呼ばれるものがあります。これは、本当は口臭が発生していないのに、自分だけが口臭があると思い込む症状のことで、ストレスなどが原因で精神が不安定な状態の場合に起こることがあります。
6-1 オーラルケアに熱心な人は要注意!?
自分は毎日の歯磨きを含め、オーラルケアに熱心だろうか? 口内環境を正常に保つために努力することは良いことですが、あまりに熱心で、毎日、自分の口臭が気になって仕方ないという人は少し注意が必要です。
口臭はどんな人でも少なからずあります。臭いの強い食べ物を食べたときや、体調が優れないときにも発生します。あまりに過剰に口臭を意識し過ぎると、口臭がないにも関わらず、あると思い込む「心理的口臭」の症状にかかる可能性があります。
この症状は、何か大きなストレスを抱え込んでいたり、精神的に不安定な状態が続くことで発症することがあり、「自臭症(じしゅうしょう)」とも呼ばれる精神疾患の一つです。自分がいま何かに悩んでいたり、精神的に疲れていないかをチェックしてみることも大事です。
6-2 「心理的口臭」は精神的なケアが必要
もし「心理的口臭」にかかってしまった場合、精神的なケアが必要になってきます。症状が軽度であれば、心理的なケアをしてくれる歯医者さんで解消を目指せますが、重度の場合ですと、精神科で治療してもらうことが必要になってきます。
重度の症状ですと、自分の口臭が他人に迷惑をかけていると思い込んで、外出することさえもできなくなり、家に引きこもってしまうようになります。こうした症状のケースですと、自分が精神的なケアが必要であることすら気づきません。
対策としては、歯医者さんが精神科へ通うことのアドバイスをしてあげることと、症状緩和のために精神科へ通院し続けられる、慎重な治療態勢を整えることが大事だといわれています。
7.まとめ
口臭の種類には、病気が原因の「病的口臭」や、空腹や緊張感の中で発生する「生理的口臭」など、5つのタイプが存在します。自分のお口や身体の状態を確認することは、口臭が発生しているかどうかのチェックにつながっていきます。口臭の原因を知ることで、正しい対策の仕方が見えてくるのです。
平成13年 国立 長崎大学歯学部 卒業・同大歯科補綴学第一講座 入局
平成16年 歯学博士号取得
平成17年 野田ファミリー歯科 入局
平成23年 あきる歯科医院 開院/院長就任
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。