親知らず抜歯後の穴はいつ塞がる?塞がらない場合、重症化するケースも【歯科医師監修】

抜歯をすれば「親知らずに起因する口腔トラブル」は解消しますが、今度は「抜歯してできた穴が痛い」といった問題に悩まされます。一時的なものとはいえ、人によっては抜歯後に激しい痛みを訴えることもあります。この記事では、「抜歯したあとの穴が痛い」という悩みを、最小限に留めるための基礎知識を紹介します。

この記事の目次

1 親知らずの抜歯方法で傷口にあいた穴の修復期間が変わる

親知らずは人によって生え方が異なり、生えてきた向きによって、抜歯の難しさが変わります。
抜歯方法が異なると、傷口の修復期間も異なります。

斜めを向いて生えてきたくらいなら、それほど抜歯で苦労することはありません。
一方、横向きで埋まっている親知らずは、抜歯がかなり困難になります。

親知らずの抜歯方法は3種類あり、抜歯が容易なほうから順に「普通抜歯」「難抜歯」「水平埋伏智歯抜歯術(すいへい-まいじょう-ちし-ばっしじゅつ)」と呼ばれます。

1-1 普通抜歯による傷口の穴

多少、斜めに生えていたとしても、抜歯をするときに大きな問題がなければ、普通抜歯となります。
言い換えると、普通抜歯がおこなえるということは、抜歯が比較的容易にできる歯ということです。
普通抜歯とは、「テコの原理で歯を抜く」処置です。

抜歯した傷口の穴を「抜歯窩(ばっしか)」と呼びます。
普通抜歯の抜歯窩はそれほど大きくないので、自然修復を期待します。
そのため、多くの場合、抜歯窩を縫合する(穴を縫い合わせて閉じること)ことはありません。

抜歯後の流れ

抜歯から1時間くらいで、血液が抜歯窩の穴を満たします。
血液はゼリー状に固まり、かさぶたのように傷口を保護します。この「ゼリー状になった血の塊」を「血餅(けっぺい)」と呼びます。

抜歯から2~3時間で麻酔が切れ、しばらくは痛みが続きますが、普通抜歯であれば耐えられないほどの痛みを感じることはまれです。
強い痛みではないものの、だいたい2~3日は、若干の痛みが続きます。
しかし、処方された鎮痛剤を服用していれば問題なく過ごせる人が多いです。

3日経てば痛みは出なくなりますが、傷口がしっかり塞がり、歯茎が固まるまでは平均で1か月かかります。

抜歯後の注意点

抜歯窩に形成された血餅を外さないようにしなければなりません。
「過度のうがい」「歯ブラシの接触」など物理的刺激を加えると、血餅は外れることがあります。
血餅がなくなると、抜歯窩は「歯槽骨(歯を支える骨)」まで直通の穴になってしまいます。この状態を「ドライソケット」と呼びます。

ドライソケットについては、2章で詳しく解説します。

1-2 難抜歯・埋伏歯など切開した場合の穴

歯根が複雑な形状をしていたり、抜歯を難しくする理由があったりすると、「難抜歯」の扱いになります。
さらに、横向きの親知らずが歯槽骨に埋まっている場合は、「水平埋伏智歯抜歯術」が必要です。
これら2つの抜歯では、「歯茎の切開」と「骨開削(骨を削ること)」をおこなうため、抜歯窩の傷口は大きくなります。

特に「水平埋伏智歯抜歯術」の場合、歯茎を大きく切り開いて、横向きの親知らずを外に引っ張り出す必要があります。
「歯を2つに割って上半分を摘出し、それから下半分を引き抜く」という流れで手術をおこないます。

傷口が大きい場合、抜歯窩を縫合します。
最終的に穴が塞がり、歯茎がきちんと固まるまでには3か月~半年を要することもあります。

2 ドライソケットは抜歯窩が骨まで通る穴

親知らずを抜歯したあと、傷口がうまく塞がらず、骨までむき出しの状態が続くことがあります。
何らかの理由で血餅ができなかったり、外れたりすると、傷口を塞ぐことができないからです。
傷口が骨まで直通になった状態のことを、ドライソケットと呼びます。
どのような抜歯方法であっても、傷口を上手く塞げなければ、ドライソケットになる確率が高まります。

医学用語では「抜歯窩治癒不全(ばっしか-ちゆ-ふぜん)」と言いますが、ドライソケットと呼ぶのが普通です。

2-1 ドライソケットの問題は、激しい痛み

普通は抜歯から2~3日で痛みが引いてきますが、ドライソケットになると抜歯2~3日経ってから痛みが悪化します。
特に食べ物・飲み物を口に含んだとき、飲食物の一部が抜歯窩に入ったときに、歯槽骨が直接刺激を受け、激しい痛みを感じます。
ドライソケットの痛みは、2週間~1か月ほど継続します。

2-2 ドライソケットで、骨が感染を起こすリスクとは…?

ドライソケットの穴に食べ物が入り、内部で雑菌が増殖すると、歯槽骨が感染を起こす場合があります。
歯槽骨が感染すると、急性歯槽骨炎を起こします。
炎症が拡大すれば、「リンパが腫れて高熱が出る」といった、風邪をこじらせたような症状が出ることもあります。

また、歯槽骨の炎症が重症化すれば「骨壊死(骨が死んでしまうこと)」、炎症が周囲に拡大すれば「蜂窩織炎(ほうかしきえん:重い化膿を伴う炎症)」を起こすリスクもあります。
広範囲の骨が壊死すれば外科手術が必要になるほか、蜂窩織炎に発展すれば舌や顎まで大きく腫れあがり、発熱などの全身症状を引き起こします。

ドライソケットの状態では骨に雑菌が感染することがあり、炎症が拡大・重症化すればより大きな手術が必要になる場合もある、と認識しておかなければいけません。

2-3 ドライソケットは治療することができる?

1か月ほどでドライソケットの痛みがひいても、食事中に不便を感じることがあります。
穴がなかなか塞がらず、ご飯粒が入るなどの問題が起こるからです。
ただし、多くの場合、2~3か月でドライソケットが塞がり、自然修復します。
普通抜歯をした場合よりも長い期間、痛みや不便に耐えることにはなりますが、決して治らないものではありません。

非常に稀(まれ)ではあるものの、穴が塞がらないことがあります。ドライソケットの穴が残ってしまう、というケースです。
こういったケースでは、「抜歯窩再掻把(ばっしか-さい-そうは)」を検討する場合があります。
「抜歯窩再掻把」とは、麻酔をかけて傷口を再び出血させ、あらためて修復を促す治療法です。

3 ドライソケットの予防法

ドライソケットを作らないためには、どんなことに気をつけたらいいのでしょう?

3-1 うがいをしすぎない

抜歯直後はもちろん、時間が経ったあとも、うがいをしすぎないことが大切です。
口内に血の味がして不快感を伴うかもしれませんが、できたばかりの血餅は剥がれやすいため、うがいで容易に剥がれてしまいます。

ドライソケットを引き起こしたときの痛みの強さを考えると、多少の不便を感じてもうがいをしすぎない方がいいでしょう。

3-2 運動や入浴を控える

抜歯した当日は、血行がよくなる行為は避けてください。
血の巡りがよくなると、血が止まりにくくなり、結果的に血餅ができにくくなります。

3-3 飲酒や喫煙を控える

飲酒は、血行をよくする行為の一つなのはイメージしやすいのではないでしょうか?運動や入浴と同じ理由で、飲酒は控えた方が良いです。

逆に、喫煙は、血の巡りを悪くする行為です。
血の巡りを良くしすぎるとなかなか血が固まりませんが、値の巡りを悪くすると今度はふたをするための出血が期待できません。
そのため、飲酒も喫煙も控えた方がよいでしょう。

3-4 指で抜歯窩を触らない

指や手には細菌が付着しています。
細菌がついた手で傷口を触ると細菌感染する恐れがあります。

また、指で触ったときに、血餅が剥がれてしまうことが考えられます。

3-5 丁寧すぎる歯磨きをしない

清潔にしておきたい気持ちはわかりますが、歯ブラシの毛先で血餅が剥がれてしまうことがあります。
抜歯した歯以外の歯磨きは大切ですが、傷口に歯ブラシが当たらないよう、慎重に歯磨きをおこなう必要があります。

4 ドライソケットが痛いときの応急処置

抜歯後2~3日経っても痛みが引かない場合の、対処法を確認しておきましょう。

4-1 痛み止めを服用

ひどく痛んだり、痛みがあることで集中できなかったりする場合は、痛み止めを服用して問題ありません。
一定時間、我慢をすれば痛みが引いていくタイプの痛みではないため、早めに薬を飲んでください。

4-2 安静にする

無理をせず、横になったり、身体を休めたりしてください。
また、万が一、ドライソケットになる場合のことを考えて、大切なイベントや仕事を控えているときの抜歯は、控えた方がいいでしょう。

4-3 ドライソケットになってしまったらすぐに歯医者へ

ドライソケットになってしまった疑いがあるようであれば、すぐに歯医者さんを受診してください。
ドライソケットの消毒や抗生物質の塗布で炎症を抑え、抗生剤や痛み止めを処方してくれるはずです。

ドライソケットに対する治療法は、医師の考え方によって異なるようです。
早い段階で「抜歯窩再掻把」を検討する医師がいる一方、しばらく様子を見る医師もいます。
いずれにしても、抜歯窩再掻把は最終手段です。
痛みと身体の負担をきちんと歯医者さんに説明し、安静にできる時間をとることが大切です。

5 まとめ

親知らずを抜歯した傷口が塞がるまでの期間は、状況によって大きく異なります。
普通抜歯で何事もなく終われば1か月以内に塞がりますが、ドライソケットを起こした場合は時間がかかります。
親知らずを抜歯したときは、歯科医師の注意をしっかりと聞いて、きちんと治療するように心がけましょう。

先生からのコメント

親不知の抜歯は難易度や術後の痛み、腫れなど様々です。学校の行事やお仕事の都合など担当医の先生とよくご相談の上行ってください。

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。