顎関節症が頭痛の原因になる理由とセルフチェック+対処法

日本人の3人に1人は、慢性的な頭痛を抱えていると言われています。その原因を、肩こりや目の疲れ、はたまた天気のせいにしてしまっている方も多いのではないでしょうか。

「痛みを感じたら薬を飲む」というように、漫然と対症療法だけを行ってきた方は、ぜひ一度この記事に目を通してみてください。もしかしたらその頭痛の原因は、顎関節症かもしれません。

顎関節症は、歯医者さんで治療できます。頭痛を根本からアプローチして、快適な日々を手に入れましょう! この記事では顎関節症のセルフチェックから、治療や原因、予防法までをまとめました。

この記事の目次

1.顎関節症による頭痛の症状

顎関節症では、物を噛んだときに痛む、顎の関節が痛いなどの症状が現れます。そして、ときに顎関節症は頭痛をもたらします。

それでは、顎関節症の場合はどういった種類の痛みを感じるのでしょうか? この章では、顎関節症特有の頭痛について確認してみましょう。

1-1 こんな頭痛は要注意

こめかみが締め付けられるように痛い

こめかみ付近を中心に、締め付けられるような痛みを感じる頭痛は顎関節症の可能性があります。食べ物を噛むときにはこめかみがよく動きますが、これは咀嚼するときに使う筋肉の一つで「側頭筋」といいます。顎関節症が原因で側頭筋が異常に緊張したり、負担がかかったりしたときに、ズキンとした頭痛を引き起こすのです。

週末だけ頭痛になる

仕事や緊張から解放されリラックスした瞬間、ズキンズキンと脈打つような片頭痛が起こることはありませんか? この場合は緊張しているとき、無意識に顎や歯を食いしばっていたり、噛みしめていたりする可能性があります。その際に無駄な負荷が肩や首にかかってしまうため、コリを引き起こし、頭痛につながっている可能性があります。

1-2 顎関節症チェック

ではここで、顎関節症が原因で頭痛が起きているかどうか、下記の項目に当てはまるものにチェックを入れてみてください。

□口を開いたとき、指がタテに3本入らない

□口を開けたとき、「ピキッ」「カクッ」などの音がする

□鏡に向かってゆっくり口を開けると、下あごの左右がずれながら開く

□口の開閉時に、顎が痛む

□こめかみを押すと痛い

□就寝中、歯ぎしりをしているような気がする/歯ぎしりを家族に指摘された

□起床時、顎がスムーズに開かない。違和感がある

□緊張やストレスを感じる環境にいることが多い

上記8項目のうち当てはまる項目が多ければ多いほど、顎関節症の可能性が高くなります。

2.顎関節症の治療法

顎関節症による頭痛を緩和するためには、顎関節症自体を治すのが近道です。その治療法は、顎関節症が起こる原因ごとに異なります。この章では、その治療法について紹介していきます。

2-1 歯を治療する

虫歯が原因である場合や、歯の高低差などが原因で顎関節症が起こっている場合は、まず歯の治療を行いましょう。虫歯は治療できますが、歯の高低差を整えるとなると健康な歯を削る必要があるかもしれません。そのため、治療前には医師によく相談することが大切です。

2-2 顎を治療する

顎を治療するには、マウスピース、整体、血流改善、手術、薬の投与と、主に5つの方法があります。

マウスピース

マウスピースを使用すると、噛み合わせを矯正することができます。スプリントと呼ばれる薄いマウスピースを歯に装着し、正しい噛み位置に歯や顎を誘導して矯正します。

メリット

自身で気をつけることが難しい夜間の歯ぎしりなどの負担軽減に有用です。また歯を直接削ることなどがないため、合わなければ中止できます。

デメリット

歯に合わないマウスピースを長期間使用すると、かえって症状が悪化してしまうことがあります。そのため、事前にきちんと医師と相談し、自身に合ったマウスピースを用意する必要があります。

整体

整体と言っても、骨をバキバキ鳴らす大仰なものではありません。顎関節の中にある「関節円板(かんせつえんばん」や、顎の関節が開閉する際の軌道を正しい位置に矯正するなど、細かい調整を行うものです。

また首、肩、腰、背骨など、体にゆがみが生じてしまうと顎関節症になることもあるので、全身のゆがみを矯正するのも対処法の一つです。整体による作用は、施術をする先生の知識や技術によるところが大きいので、上手なお医者さん探しがポイントになります。

血流

顎や首の血流を上げるホットパックが、顎関節症に有用だといわれています。顎関節周辺を温め、血行を促進することで筋肉の緊張をほぐします。慢性化してしまった顎関節症の治療において、補助的な治療として使われることが多い方法です。

血流が上がると、疲弊回復の促進にもなります。火傷にさえ気を付ければ家庭でもできるのがメリットです。

手術

重度の顎関節症の場合、手術を行うこともあります。とはいえ、ちょっとした頭痛であれば、手術を必要とするほど重篤なことは少ないでしょう。

手術には、関節や関節液と呼ばれる潤滑油のような液体が包まれた「関節包(かんせつほう)」の中身を洗浄する方法や、関節鏡(かんせつきょう)という器具を使って大きな傷を付けずに直接患部を視診・治療する方法などがあります。

薬の投与

鎮痛剤・筋弛緩剤などの薬を用いて、痛みを直接抑えたり、筋肉の緊張をほぐしたりすることで、今ある痛みを軽減します。根本的な治療になるわけではないので、それで治るというわけではありません。

顎関節症は、人間が生まれ持つ自然治癒力に任せて経過を観察する場合も多いようです。そのため、自然治癒するまでの一時的な補助として使われることがあります。

3.顎関節症の原因

頭痛の原因となる顎関節症は、日常の何気ない癖や習慣が引き起こしている可能性が高いです。いくつか原因は考えられますが、以下の要因に心当たりがあれば、顎関節症である可能性が高いと言えるでしょう。

3-1 噛み合わせのバランスが悪い

噛み合わせのバランスが崩れる原因として、噛み癖や習慣、歯のすり減り、姿勢のいずれかが関係しているといわれています。

噛み癖、習慣の悪さ

食事の際にどちらか片方で噛む癖があると、咀嚼筋の負担に偏りが起き、顎がゆがんでしまいます。また虫歯の痛みでどちらか片方でしか噛めない場合も、虫歯治療の期間が長引くほど顎がゆがみやすくなります。

歯のすり減りによるバランスの不均衡

就寝中の歯ぎしりや、日中の食いしばりなどによる歯の摩耗で左右のバランスが崩れ、顎のゆがみが起きやすくなります。

姿勢の悪さ、顎のずれ

脊柱が曲がっていたり、猫背だったりして姿勢が悪いと、身体のバランスの崩れがそのまま顎の左右不均衡につながります。また食事の際、テレビを見るなどしてまっすぐ前を向かずに食べ続けていると、気づかないうちに首の片側に負担をかけ、顎のずれにつながっていきます。電話を肩で挟むなど、片方にかかる負担が大きい姿勢を取り続けている場合なども同様です。

3-2 睡眠時に無意識に噛みしめている

睡眠時の無意識の歯ぎしりは、筋肉や顎に大きな負担をかけます。関節や筋肉を使いっぱなしの状態になるので疲れやすく、だるさを感じやすくなるのです。結果、口が開きにくくなるなどの症状が起きます。

3-3 ストレス

仕事などで緊張する場面になると、つい奥歯を噛みしめたり、歯を食いしばったりしていませんか? この場合も、咀嚼筋や関節に負担がかかります。食いしばりは就寝中の歯ぎしりと並んで、顎関節症の方の多くを占める原因の一つです。

3-4 外的要因と病気

物理的にぶつけることでも、顎関節症を引き起こします。例えば転倒や事故などで下顎をぶつけてしまい、顎関節が傷ついた場合などが考えられます。

あるいは変形性関節症、関節リウマチ、化膿性関節炎といった関節炎を引き起こしやすい病気も、顎関節症の原因となりえます。

4.顎関節症の予防と対処法

今は顎関節症の不安がなくても、もしかすると将来、顎関節症が原因の頭痛が起こるかもしれません。また現状で顎関節症の疑いがある方も、受診して噛み合わせを確認するほか、顎に負担のかかる癖や姿勢を直しておきたいものです。それでは具体的に、対処法を見ていきましょう。

4-1 噛み合わせを診てもらう

鏡を見て左右の広角の高さが違う、口を上げると左右に揺れながら下顎が開くなど、気になる点があれば医師に診てもらいましょう。顎関節症を得意としている歯医者さんがおすすめです。噛み合わせのずれは、素人では判断しづらいものです。自分で判断せずにお医者さんで見てもらうことで、早めに対処することができます。

4-2 顎に悪い癖、姿勢を見直す

食べるときの癖を見直す

特に歯に異常はないのに、なんとなく片側で噛む癖があるなと思ったら、意識して左右両方を使って噛むように心がけます。奥歯だけでなく前歯もなるべく使うようにすると良いでしょう。また、首はまっすぐ前を向くようにして食べましょう。

習慣・姿勢を見直す

よく頬杖をついている方は、頬杖をなるべくつかないように気を付けましょう。また姿勢が悪くなりがちな方は、普段から気を付けて顎や首付近に力が加わっていないかチェックします。同じ姿勢でいることが多い場合は、ときどき体操などで体をほぐし、体がこり固まらないようにしましょう。

日中、気が付くと食いしばっている方は、閉じた口の中で「あ」と発音するような形で歯と歯の間を空けることを心がけましょう。しかし、自分では気づきにくいことが多いかもしれません。その場合は、よく目にする場所に「歯に力を入れない」「歯を食いしばらない」など、メモを貼り付けておくのも効果的です。

4-3 ストレスを取り除く

歯を食いしばったり、歯ぎしりをしたりする原因には、日ごろのストレスや疲れが関係しているといわれています。特に就寝中の歯ぎしりがある場合、気をつけるのが難しいかもしれません。

そのため、できる限りそのストレスを感じないように環境を整えましょう。日中の食いしばりについても同様で、ストレスを軽減することで改善できることがあります。

5.まとめ

頭痛がなかなか治らない。もし口が開きにくい、歯ぎしりをする、などの症状があれば、その頭痛の原因は顎関節症かもしれません。

軽度なら、日ごろから予防を意識して、姿勢や食べるときの癖を見直してみるだけで改善できることもあります。しかし、実際に顎関節症かどうかは素人の判断だけでは難しいものです。なぜなら原因は一つではなく、さまざまな要因が絡んでいる場合が多いからです。

顎関節症については、専門医や顎関節症を得意とする歯医者さんで診てもらうのが得策です。原因により治療法も多様なので、その治療にあたっては医師に判断を仰いで、適切に行うようにしましょう。

プロフィール&経歴

目指したきっかけ:医療には関心あったが、やはり一番は両親の教育が大きかったのではないかと思う。
やりがい:大学のときは他の職種とは違う特殊性に惹かれていたのですが、実際歯科医になってからはお礼を言われる部分です。

松本歯科大学卒業後、同病院勤務。
琉球大学医学部付属病院歯科口腔外科にて
顎顔面領域悪性腫瘍治療に従事。
その後都内複数歯科医院勤務後、
麻布シティデンタルクリニックを開院。
現在に至る。

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。