【教授に聞く】1歳の子供の歯が“ぐらぐら”!?全身に影響する“骨の異常”の可能性

日本大学・歯学部・小児歯科学講座・白川哲夫教授にインタビュー。子供の治療に、笑気吸入鎮静法は有用なのか、虫歯予防にフッ素は良い影響を与えるのかなど質問しました。

ほかにも、子供を歯医者さんに連れて行く適齢期を聞くと、幼い子供がなりうる“骨の異常に関係する病気”が隠れている場合があることも判明しました。

治療方法、予防に関する対策を解説していきます。

※前回の記事「小児歯科のトレンドの変化!母子分離から保護者同伴へ

この記事の目次

不安や刺激を軽減!笑気ガスの有効性

Q1.歯科治療を嫌がる子供に笑気吸入鎮静法はどう働きますか?

笑気は、長らく麻酔薬として使用されていますが、ぐっすり眠らせて痛みを感じなくするまでの作用はないということが分かっています。

ではどのような役割があるのかといいますと、患者さんをリラックスさせ、ある程度、痛みを感じにくくします。鎮静法という言葉が使われていますように、落ちつくわけですね。

刺激に鈍感になり、不安感を和らげる作用があるので、歯科治療に使われており、小児歯科に限らず、歯科医師であれば、使用することが認められています。

慣れが必要?笑気麻酔を受けられる年齢

Q2.何歳くらいから笑気吸入鎮静法を受けられますか?

3歳以降ですね。笑気ガスを吸ってもらうので、マスクを鼻にあてるわけです。ガスの匂いは不快ではないのですが、ゴムマスク自体の匂いだとか、マスクを被せたときの少しの圧迫感、そういった状況に慣れることができるかどうかで、使用を判断しますね。

濃度は3種類!年齢に合ったフッ化物を

Q3.虫歯予防になるフッ素塗布のメリット・デメリットを教えてください

デメリットというのは特にないんですね。ただ、濃度が高過ぎるとフッ素自体の毒性が問題になりますから、使用する上での限度はあります。わずかな量ですが、歯に塗った後に飲んでしまうことがあるので、それも考慮して使う必要があります。

そういったことを除けば、「歯の表面にフッ素を塗って虫歯を予防しましょう」というのは基本になっているんですよ。水道水にフッ素を混ぜている国もあります。なお塗布する場合も含めて、正しくは「フッ素」ではなく「フッ化物」というフッ素の化合物が使われています。

小さいお子さんに家庭用のフッ化物製剤を使う場合は濃度の濃すぎないものを選んでください。市販されているジェルやスプレー剤などがありますけれど、幼児用の濃度小学生くらいに向けた濃度成人にも作用が期待できる濃度と、ジェルの濃度は3種類ほどあります。年齢に合ったフッ化物を使用するということがポイントになりますね。

それから歯科医院で濃度の濃いフッ化物を、半年に1回くらい塗るという方法もありますが、それは歯科医院に任せていただければいいかと思います。

1歳の子供の歯が“ぐらぐら”!?全身的な骨の異常可能性も

Q4.子供を歯医者さんに連れて行くタイミングはいつがよいでしょうか?

決まった年齢はないのですが、下の前歯が生えてきたからといって「歯科医院にすぐかかってください」ということはないです。下の前歯は、唾液でいつも洗われているので虫歯になりにくいというのが理由です。

上の前歯が4本くらい並びますと、歯の汚れが気になったりしますので、1歳を過ぎてから受診していただくのがいいのではないかと思いますね。

ただ1歳半くらいであっても遅すぎるということはないですよ。1歳半でも奥歯が上下左右、1本ずつ出ているかどうかというところで、普通の食生活をしていれば、それほど虫歯にはならないですね。

かなり例外的な話になってしまいますが、2歳前の子供の前歯がぐらぐらしてきて、そのうち抜けてしまうという病気があります。

これは内科的な病気なんですけれども、「小児歯科でその病気を発見してください」という依頼が、小児科の先生方からありました。

病名は低ホスファターゼ症といい、基本は骨の病気なんです。この病気は、骨に異常が出てから小児科で診断がつくよりも、小児歯科にかかった際に歯の異常をきっかけとして見つけることができますので、発見が早くなるということがあるんですよね。

いい薬もつくられてきていますので、歯が抜けてしまうことを予防できるだけでなく、全身的な骨の異常を予防することにもつなげられるようになっています。

ですので、1歳、1歳半くらいで、なぜか歯がぐらぐらしているという場合は、小児歯科にかかってください。だいぶ例外的な病気ではありますけどね。

乳歯の神経を取る=永久歯は生えない!?

Q5. 乳歯の虫歯治療で神経を抜いてしまったら、永久歯は生えてこないのでしょうか?

やむを得ず神経を取らなければいけない場合は、神経を取った後の細い空洞(根管)に薬剤を入れて封鎖します。その封鎖状態が問題なく続いていれば、永久歯が生えることにまず悪影響はないですよ。

逆に治療を受けないで、細菌が虫歯になった穴から神経の方に向かい、根の周囲まで細菌感染が広がってしまうと、歯の周りの骨が溶けてしまうということがあります。そこまで行くと、永久歯への影響を考えなくてはなりません。

なので、細菌感染で神経を取らなければいけないということが分かったら、神経を根の先の方まできれいに取って、長期的に性質の変わらない薬剤を詰め、永久歯が生えるまで待つということが大切です。

まとめ

笑気吸入鎮静法には、痛みをすべてなくす作用はないものの、リラックス作用などがあり、幼い子供でも受けられることが分かりました。

また、フッ化物を歯に塗ることは虫歯予防の基本的な考え方になっているようです。市販のものを使用する際には、年齢に合ったフッ素の濃度を確認することが大切です。

さらに、2歳前に乳歯がぐらぐらと揺れている場合には、骨の病気が考えられるようです。子供の歯の状態をよく確認して、小児歯科に通うことが重要になってきますね。

※次の記事「1歳の子供の歯が“ぐらぐら”!?全身に影響する“骨の異常”の可能性

日本大学 歯学部 小児歯科学講座
白川哲夫教授監修
経歴・プロフィール

日本大学 歯学部 小児歯科学講座 教授
【略歴】
1986年~1989年:北海道大学歯学部附属病院 助手
1989年~2002年:北海道大学歯学部附属病院 講師
2002年~2003年:北海道大学歯学部附属病院 高次口腔医療センター 助教授
2003年~2006年:北海道大学病院 高次口腔医療センター 助教授

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執筆者:歯の教科書 編集部

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