食事・会話など、顎の関節はあらゆる時間、働き続けています。そして、それだけに、負担がかかりやすい関節でもあります。もし、顎関節に次のような症状が出ているなら、医療機関の受診を検討してみてください。
◆口を開けたり閉じたりしたとき、音が鳴る
◆口を大きく開けようとすると痛む
◆口を4cm以上、開くことができない
◆口を開けようとすると、顎が左右にぶれる
以上の症状が見られるなら、顎関節症になっている確率が高いでしょう。症状が悪化しないうちに、医療機関を受診したほうが良いと思います。こちらの記事では、「顎関節症は何科を受診すれば良いのか」をはじめ、顎関節の健康を守るための基礎知識をお届けします。
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この記事の目次
1.何科を受診すれば…? 顎関節症の治療を受ける!
顎関節症の疑いがある場合、どこの診療科目を受診するべきなのでしょう? 案外、「この症状なら、何科を受診」という情報は出回っていないような気がします。世間一般で「もしかしたら、顎関節症かも…」と思った人は、どの診療科目にかかっているのか気になりませんか?
1-1 歯科口腔外科
歯科口腔外科は、口腔内(口の中)の診療をおこなう診療科目です。「口腔内」と表現するとなんだか漠然としていますが、「口唇・歯槽・口腔底・硬口蓋・軟口蓋・頬粘膜・舌の先端から2/3・唾液腺・顎骨」が守備範囲になります。わかりやすく表現するなら「口の中に加えて、唇と顎骨」と理解していただければよいでしょう。
顎骨が歯科口腔外科の領域であることを踏まえれば、顎関節症が歯科口腔外科の範疇であることは間違いありません。以上から、「顎関節症は何科…?」という質問の回答は「歯科口腔外科」となります。
1-2 歯科
「顎関節症の診療を扱っている歯科医院がある」という事実を知っていれば、「顎関節症なら歯科を受診するべき」と考えるかもしれません。実際、「町の歯医者さん」の中にも、顎関節症の診療をおこなっているところがたくさんあります。「顎関節症=歯科」という認識は、少なくとも間違ってはいません。
ただ、標榜科が「歯科」だけの歯科医院には「顎関節症は守備範囲外」という歯科医院もたくさんあります。歯科医院を受診するのであれば、前もって「顎関節症に対応しているかどうか」を問い合わせたほうが賢明でしょう。
1-3 整形外科
「骨・関節のことだから整形外科に行けば…」と受診する人も一定数、いらっしゃるようです。しかし、基本的に整形外科は顎関節症を扱っていません。原則、整形外科の守備範囲は首から下…と考えてください。たとえば、顔面の骨折は形成外科の範疇であり、整形外科ではありません。
1-4 形成外科
「首から上は形成外科」という情報を知っている人は、もしかしたら形成外科を受診するかもしれません。しかし、残念ながら、形成外科も顎関節症は専門外となります。「首から下は整形外科、顔面は形成外科、口腔周辺は歯科口腔外科」と考えてください。
1-5 耳鼻咽喉科
「口内炎を耳鼻咽喉科で診てもらえる」という情報があるためか、口腔トラブルで耳鼻咽喉科を受診する人もいるようです。たしかに口内炎であれば、耳鼻咽喉科・皮膚科などを受診しても、診てもらえる可能性が高いでしょう。しかし、顎関節となると、歯科・歯科口腔外科を紹介されるはずです。
もう1つ、顎関節症で耳鼻咽喉科を受診する人が多い理由が存在します。下顎骨は、側頭骨にはまりこむ形になっているのです。接続部はちょうど、耳の手前―こめかみより少し低いあたりになります。そのため、顎関節症の痛みを「耳のあたりが痛い」と認識する人がたくさんいるのです。結果、耳鼻咽喉科を受診するわけですが、顎関節症の疑いがあれば、やはり、歯科・歯科口腔外科に紹介状を書いてもらうことになります。
1-6 鍼灸・整体院など
鍼灸などの東洋医学的アプローチ、整体院などの代替医療的アプローチを試みる人が多いのも事実です。症状が軽快したという人がいるのを否定するつもりはないのですが、しかし、医学的なエビデンス(治療効果が得られるという根拠)が存在するわけではありません。医学的な見地からは「効果のほどはわからない(=少なくとも、根拠はない)」と説明することになります。
2.医療機関での顎関節症治療とは…?
それでは、医療機関における顎関節症の治療内容を確認してみましょう。世間一般では「顎関節症=噛み合わせの問題」と考えている人が多く、「顎関節症治療」と「歯列矯正」を混同している例も散見されます。確かに、噛み合わせに由来する顎関節症も存在しますが、すべての顎関節症が噛み合わせに起因しているわけではありません。
この章では、「医療機関における顎関節症治療がどのようなものなのか」を確認することにしましょう。
2-1 スプリント療法
顎関節症の原因としては「TCH(歯列接触癖)」「ブラキシズム(歯ぎしり)」が知られています。TCHという単語を聞き慣れない人も多いでしょうから、わかりやすく説明することにしましょう。
TCHというのは、「上下の歯が頻繁に接触している(=噛んだ状態である)」ということです。もともと、何もしてないときは隙間が空いているのが正しい状態であり、常に噛み合っていると余分な負担がかかります。歯ぎしりに関しては想像がつくと思います。歯だけでなく、顎にまで負担がかかるのは自明といえるでしょう。
顎骨・顎関節全体に、均等な力が加わっていれば、下顎の位置は安定します。しかし、TCH・ブラキシズムの癖があると、特定部位だけに余計な負担がかかりがちです。結果、顎関節のバランスが崩れてしまうのです。
以上から、顎関節に無理な力が加わると顎関節症を誘発する…と考えてください。ここまでの事実を踏まえると、「顎関節に負担がかからないようにする」という治療方針が成立するはずです。そして、その治療方針に則した手法が「スプリント療法」です。
スプリント療法では、睡眠時にスプリントと呼ばれるマウスピースを装着します。スプリントにより、歯ぎしり・食いしばり・TCHの圧力を分散・軽減するわけです。結果、顎関節への負担が大きく軽減され、徐々に顎関節の位置が安定していきます。
歯科口腔外科のほか、顎関節症に対応している歯科医院でもスプリント療法を受けることが可能です。
2-2 マイオモニター療法
「マイオモニター」というのは、電圧11~12V、持続時間0.005秒の低周波パルスを発生する装置です。三叉神経に刺激を与えて筋肉の不随意収縮を起こし、結果的に筋肉の緊張を緩和します。理学療法の一種です。
筋肉の緊張を緩和する装置なので、「咀嚼筋(噛むのに使う筋肉)」「靱帯・関節包(関節を包んでいる軟組織)」に問題がある顎関節症に対して有用です。逆に、骨・関節自体に原因がある場合は、あまり奏効しません。
歯科口腔外科だけでなく、顎関節症治療に力を入れている歯科医院でもマイオモニター療法を受けることができます。
2-3 関節腔洗浄療法
関節腔というのは「骨と骨の隙間部分」を指しています。顎関節に痛みがある場合、顎関節の関節腔に血液・炎症性物質が溜まっていることが多いです。そこで、関節腔に2本の注射針を穿刺し、一方から生理食塩水を注入、もう一方から排出する方法が功を奏します。関節腔を洗浄し、血液・炎症性物質を洗い流すわけです。
顎関節のクッション材―関節円板の位置がずれている症例(顎関節円板障害)、軟骨が摩耗して骨が変形している症例(変形性顎関節症)に用いられます。関節腔洗浄療法を受けるには、歯科口腔外科を受診する必要があるでしょう。
2-4 パンピングマニピュレーション
関節腔洗浄療法と同様、注射針を穿刺して関節腔内の血液・炎症性物質を洗い流します。さらに、シリンジ(手動の注射器)を使って内部に圧力をかけ、関節円板の位置を修正します。関節円板がずれて動かなくなった症例(非復位性関節円板転位)に有用な治療法です。
一般の歯科医院でパンピングマニピュレーションに対応しているところは、ほとんどないと思います。歯科口腔外科を受診する必要があるでしょう。
2-5 外科手術
関節腔の中に内視鏡(関節鏡)を入れて、内視鏡下で手術をおこなう方法が知られています。関節円板が癒着している場合には「関節鏡下剥離授動術(癒着を剥がす術式)」、関節円板の変形を直すには「関節鏡下関節形成術」など、目的に合わせて手術をおこないます。
関節を構成している骨に手を加える場合などは関節鏡下では実施できないので、切開手術となります。ただ、外科手術までおこなう例は珍しく、大半は保存療法で修復します。あくまでも、最後の手段…と考えてください。関節鏡下手術、切開手術のいずれも全身麻酔下でおこなうので、「総合病院の歯科口腔外科」や「歯科大学の附属病院」で入院治療をおこないます。
3.まとめ
以上から、「顎関節症は何かを受診するべきか」という問いの答は「歯科口腔外科、または顎関節症の診療に力を入れている歯科医院」となります。ただ、最初に受診するのは近場の歯科医院でも十分でしょう。相談すれば、適した医療機関に紹介状を書いてもらえるはずです。
顎関節症は昨今、顎関節症外来といった専門外来があるほど多い疾患の一つです。もちろん耳鼻科由来の開口障害や顎関節痛ということもありますので、痛みがあったり違和感があればまずは近隣の歯医者さんで相談してみてはいかがでしょうか?
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